Main2
□おあいこ
3ページ/9ページ
だが、
(ひ、ひぇぇ……!)
ツナは、雲雀が教えてくれることなど、ろくに頭の中に入れることができなかった。
何故なら、近距離で座っているため顔もとても近いし、身体が触れ合うのは当たり前で。それだけで、ツナは何も考えられなくなってしまうのだ。
さらに恋人なのだから、ただ距離が近いだけではなく、
「やっと終わったね。下校時刻までかかるかと思ったよ」
「っ……!」
隣で話す雲雀の声が、勉強を教える時とは少し違うものになる。恋人であるツナにしか分からない変化だが。
「綱吉」
「ぁ……!」
それは低く艶のある、どこか甘さを含んだ声。どきりと心臓を跳ねさせたツナは、雲雀の手が頬に触れ顔をそちらに向かせたことで、さらに息を詰めた。
「っ……!」
雲雀が、まっすぐな目で見つめてくる。その顔が、少しずつ近付いてきて。
もしかしなくても、これは……
(っ、やっぱり…キ……!)
キスされるのだ、とツナは身構えるように目と口をキツく閉じた。
だが、お互いの吐息がもう少しで触れ合いそうになった時、
「っっっ……!」
ツナは、再び爆発したのだった。
いきなり勢い良く立ち上がると、不自然なくらい明るい声で、
「お、お茶…!俺、お茶いれてきますね!」
「そう?ならよろしく」
「は、はいっ…!」
バタバタと、慌ただしく給湯室へ駆けていく。雲雀の顔を、見ることもできなかった。
(また…やっちゃった……)
姿が見えない所まで来て、ツナは上がった呼吸を落ち着けようとする。
それらしい雰囲気になればなるほど、ツナは恥ずかしさに耐えられなくなる。これまでに、何度も雲雀の側から逃げ出してしまった。
だから、ツナは雲雀とまだキスさえもしていないのだ。
(どうしよう…これじゃ……)
雲雀は何も言わない。いつもと変わらない様子で接してくれる。
だが、いくら何でもこれだけ避けてしまっては、いつか嫌われてしまいそうで……ツナはどんどん気持ちが沈んでいく。
だから、ツナは知らなかった。
雲雀が、いつもツナが顔を背けたり、側から離れていくのを、どんな表情で見ているのかを。
***
そんなこんなで、雲雀と付き合い始めて数週間ほど経ったある日。
ツナは、雲雀の家へ来るように誘われた。といっても、やはり脅迫されたと言った方が正しいのかもしれないが。
「ふわ、ぁ……!」
今まで雲雀の私生活は謎めいていて、どんな家なのか想像もできなかったが……案内されて着いたのは、とんでもない豪邸だった。