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□背伸び
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「ぁ……!」

心臓が、あり得ないくらい激しく脈打つ。緊張で声が出せなくなる。

あと少し顔を伸ばせば、キスできそうな距離に了平がいる。

「おに、さ……」
「………」

良く見れば、了平もどこか真剣な表情をして、自分を見つめているような気がして。

「っ……!」

(ど、どうしよう…これって、ついに…き、キス……!)

耐えられなくなって、ツナはぎゅ、と目を閉じた。唇と唇が触れることに身構えながら。

だが、

「……よし、そろそろ夕飯にするか!」
「っ、ぇ……?」

いつまで経っても唇に触れるものは何もなく、変わりに頭をぐしゃぐしゃと撫でられて……ツナは驚いて目を見開いた。見ると、了平は元の、屈託のない笑顔に戻っていて。

「母親がちゃんと作っておいてくれたからな!遠慮しないで食うんだぞ!」
「ぁ…は、はい……」

そう言って、先に部屋を出ていってしまう了平。ツナは、しばらくその場で呆然としていた。

(何で……)

今、確かに良い雰囲気だったのに。キスされると思ったのに……酷く残念のような、だが少しホッとしたような、複雑な気分になる。

(も、もしかして……)

そこで、ツナははっと気が付いた。

(お兄さん、俺のこと…弟みたいに思ってるんじゃ……!)

妹の京子を心底可愛がっている了平のことだ。大いにあり得る。

そしてそう確信した瞬間、ツナはガビーン!と音がしそうなほどショックを受けたのだった。


***


それから、了平の母親が作ってくれた晩ご飯を食べ、順番にお風呂へ入って、夜遅くまでお喋りをした後……とうとう寝ることになった。

もちろんご飯は美味しかったし、了平と話すのは楽しかったのだが……ツナはずっと、胸に小さな引っ掛かりを覚えていて。

(はぁ……)

了平が自分に対して抱いている想いは、恋愛ではなくただの家族愛みたいなものなのではないか。
だとしたら、手を出してこないのも分かる。了平は、スキンシップは多いが一定の距離よりも近付いてくることはないのだ。

それに、もしかしたら一緒に入るかもとドキドキしていたお風呂も、結局別々に入ってしまった。

さらには、

「沢田はベッドで寝て良いぞ。俺が床で寝るからな」
「ぇ……」

ツナがお風呂から上がってきた時、了平の部屋にはベッドの隣にもう一つ布団が敷いてあって……一緒に寝るであろう、と思っていたツナは呆然とした。

(お兄さん、やっぱり…俺のこと……)

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