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□背伸び
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「さぁ、着いたぞ!」
「お、お邪魔します……!」
金曜日の放課後。辺りが夕焼けでオレンジ色に染まる頃。
とある一軒家の前で。
「……っ!」
(ど、どうしよう…ついに、来ちゃった……!)
並中の制服姿で、いつもよりも大きな荷物を持ったツナは、そのとある家を見上げてかっちんこっちんに固まっていた。
それもそのはず、
「どうした沢田?早く中に入らんか」
「は、はい……!」
隣には同じ制服を着た、たくましい体付きをした男……一年先輩の笹川了平の姿が。
にっかりと笑いかけられて、ツナは僅かに頬を染めた。そして力強く肩を抱かれ、家の中へ入るように促されて、どきりと心臓を跳ねさせる。
何故なら、
(どうしよう……俺、ついにお兄さんの家へお泊まりに来ちゃった……!)
そう、それは……ツナと了平が付き合い始めて、初めての……お泊まりの日だったからだ。
「何だ、緊張しているのか?今日は京子も両親もいないから、何も遠慮することはないぞ」
「は、はぁ……」
(そ、それが一番緊張するんですけど……!)
苦笑いをしながら、ツナはその言葉で余計に身体を固まらせたのだった。
今週の始めに、週末家に誰もいないから泊まりに来ないか、と突然了平に誘われたツナ。偶然両親が泊まり掛けの用事で、妹の京子も次の日が休みだから、と友人の家へ泊まりに出掛けるらしい。
断る理由もなく、お言葉に甘えることにしたツナだが……誰もいない家に恋人と二人きり。つまり、そういうことではないか。
いくら性に疎いツナでも、それくらいのことは分かる。だから、約束をしてからこの五日間、そのことばかり考えていて。
ドキドキしたり妙な妄想をしてしまって、夜もろくに眠れなかったほど。
(ど、どうしよう……)
期待と不安に心臓を高鳴らせながら、促されるまま家に上がる。
実は、ツナは了平の家へ来るのは初めてだった。初めて訪れる、しかもそれが恋人の家であれば、その緊張は半端ない。
「ここで少し待っていてくれ。飲み物を持ってくるからな」
「お、お構い無く……」
二階にある了平の部屋に案内されてすぐに、了平はそう言い残して出ていった。
残されたツナは、隅っこの方で体育座りになって、小さく縮こまっている。部屋の中を、チラチラと盗み見ながら。
(お兄さんの匂いがする……)
初めて入る了平の部屋。中は了平の香でいっぱいで……落ち着くような、だが胸が熱くなるような、そんな良く分からない気持ちになる。