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□狂愛
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何が嘘で、何が本当なのか。

何が正しくて、何が間違っているのか。

それはきっと、誰にも分からない。

ただ全ては、そして確かなことは―――





***


それは、ただ異様な光景だった。


どこかにある、講堂のような建物。
中は広く天井も高くて、開放的な造りをしている。だが照明の光は弱く全体が薄暗くて、石造りの壁や床に敷かれたカーペットの色さえも良く分からなかった。

そんな、どこか不気味にも感じられるその空間には……何十人もの男がひしめき合っていた。
年齢は皆ばらばらで、まだ大学生くらいの青年もいれば、もう年老いた者もいる。服装も、スーツや私服など様々で、それぞれ違った職業であることが分かった。

暗くてその表情は良く見えないのだが……どの人物も真剣な、だが何かに心を捕われているような、そんな顔をしていた。

彼らは皆立ったまま、一言も喋らずに、ある一点に視線を集中させている。
視線の先……空間の奥には何かの祭壇のような物があり、そこだけが微かな明かりに照らされていて。なので、その一角だけがぼんやりと浮き上がっているように見える。

そして、その祭壇には一人の若い男が立っていて、分厚い辞書のような本を片手に、目の前にいる大勢の男達に何かを語り掛けていた。

「……であるからして、世の中を平穏に導くためには……」

銀色の髪に鋭い瞳。細身のスーツに身を包んだ男は、まだ二十代半ばほどの青年だった。
獲物を刺すような目付きに、声も低く鋭さを孕んでいるが、目の前の男達は一心にその男の言葉に耳を傾けている。

「一人一人が……に感謝し、……の幸せをまず願うことで……」

決して大きな声ではないはずなのに、しんと静まり返った物音一つしない空間に、男の声ははっきりと響き渡っていた。

そこには張り詰めたような、だがねっとりと身体に絡み付くような、妙な空気が漂っていて。

そんな中で、一人の人間の言葉に、大勢の人間が意識を集中させているのだ。

普通の人間が見れば、誰もが異様な光景だと思うだろう。そして、全員が口を揃えて言うに違いない。

これは、まるで……

「従って―――」

その時、

「―――はやとっ!」

ピンと張り詰めた空気を破るかのように、部屋の外でドタバタと慌ただしく走る音が聞こえたかと思うと……突然、祭壇近くにあった豪奢な造りのドアが、大きな音を立てて開いた。
同時に、空間全体に響き渡る、まだ幼い子どもの高い声。

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