Main2

□Bitter and bitter
2ページ/11ページ



だが、それは約一週間ほど前に、とある一人の男に抱かれたことで変わってしまった。

その男は酷く冷淡で、今まで男達を馬鹿にしてきたツナを圧倒的な力でねじ伏せ、抗えないほどの快楽で支配した。

心の中も、弱さも全て見透かされてしまい……嘲笑され辱められて、しばらく立ち直れないほど貶められたのだ。


あれから約一週間。

「………」

夜。今日も、ツナはホテルの立ち並ぶいつもの路地裏を訪れる。やはり、生活をするにはこれしかないから。

正直、あの男に抱かれてから、ツナは男とセックスするのが恐かった。自分は変わってしまったのではないかと、酷く不安に思っていたから。

だが、適当に見付けた相手に抱かれても、感じるのは以前と同じ嫌悪感だけで。

(大丈夫…俺は、まだ……)

ツナは少しホッとした。自分は決して、変わってなどいない。あの時は、ただ少しおかしかったのだ、と……まるで、自分に言い聞かせるかのように。

『淫乱なんだろう……?』

「っ……!」

不意に、あの男の声が聞こえた気がして、ツナは身体を強ばらせた。

あれからふとした拍子に、頭の中に響くあの男の声。低く、少し擦れた艶のある声が、耳に残って離れない。

(っ、くそっ……!)

身体がじんわりと熱くなりかけて、ツナは慌てて首を振った。

決して自分は、淫乱な人間なんかではない。あれは、何かの間違いだったんだ……そう思わないと、おかしくなってしまいそうで。

(忘れよう…アイツのことは……)

もう二度と、会うことはないのだから……ツナは、誤魔化すかのように自分の細い腕を抱いた。

その時、

「……ねぇ、君」
「っ……!」

突然声をかけられて、びくりと肩が跳ね上がる。俯いていたので、近くまで誰かが来ていたことに気が付かなかった。

顔を上げれば、四十代くらいの、スーツ姿のサラリーマンのような男が立っている。
男はツナと目が合うと、嬉しそうに表情を綻ばせた。

「ああ、やっぱり。覚えているかい?何週間か前、一緒に近くのホテルへ行っただろう?」
「………」

そう言われても、ツナは男を思い出すことができない。数日前に会った男の顔もすでに忘れているのだ。それよりも以前の人間なんて、影も形も覚えていないだろう。

そんなツナに構わず、男はそっと身を寄せてくる。にやにやと、いやらしい笑みを浮かべながら。

ツナは、こんな下卑た笑みをする人間が一番嫌いだった。

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ