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□Bittersweet
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「―――ねェ、俺とヤらない……?」

それが、いつもの始まりの台詞。

金を持っていそうな男を適当に選んで、さり気なく近付いて。腕や腰に手を絡め、下半身を擦り付けながら上目遣いで甘えるように言えば、目の色を変えない男はいない。

すぐに荒々しく腰を抱かれて、近くのホテルに連れ込まれる。部屋に入れば、ベッドへ行く時間さえも惜しいとばかりに身体を揉みくちゃされ、むしゃぶりつかれる。

「っ、ぁ……!」
「はぁっ…はぁっ……!」

乱暴に衣服を剥ぎ取られ、脂ぎった手が全身を這い回る。音を立てながら、隅々まで舐め回される。

(気持ち、悪い……)

肌をまさぐる熱い手も、濡れた舌の感触も、熱い吐息さえも……どれも気持ち悪くて仕方がない。

けれど、

「ぁっ、ぁぁんっ…ぁぁっ……!」

何よりも、自分の甘ったるい、媚びたような声が一番気持ち悪くて、吐き気がした。


***


ツナには金が必要だった。

事情があって家族はいない。安いアパートで一人暮らしをしている。地元の高校に入学したが、学校は良く休む。

幸い、公立の学校に通っているため授業料はいらない。だから、学校生活にかかる費用はあまりない。

だが、生活をするにはたくさんの金が必要だった。

だから……ツナは高校生になると、男相手に売春をするようになった。どこの誰かも分からない男に、己の身体を差し出すのだ。


今日も夜になると、駅前の賑やかな通りを少し離れた、ホテルなどが立ち並ぶ路地へと向かう。ツナがいつも行くここは、そういう人間が集まる場所でもあるのだ。

もちろん、ツナにそういう趣味はないし、男に抱かれるなんて本当は嫌だった。むしろ、自分を好んで抱く人間を軽蔑さえしている。

だが、普通のバイトで高校生が稼げる金なんてたかが知れているし、到底生活できない。今後のための貯金もしたい。

それが、この商売なら一度に多くの金が手に入るし、相手によってはしばらく生活できるほどの額を払われることもある。

ツナには、躊躇っている時間などなかったのだ。

(この間の奴は、しつこくて鬱陶しかったし…もっとましな奴が良いな……)

そんなことを考えるようになってしまった自分に、ツナは自嘲するように笑う。

幸か不幸か、ツナの容姿はとても整っていた。高校生には見えないくらい幼く、可愛らしい顔立ちと身体付き。
そういう少年を好む人間はたくさんいた。

それも、ツナが軽蔑するに値する人間なのだが。

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