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□Bittersweet
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しばらくの間、通りの端で今日の相手を吟味していたが、どうも目に留まる人間がいない。ツナのことを遠くから見つめたり、たまに声をかけてくる人間もいるが、どれもたいして金の持っていなさそうな奴ばかりで、ツナは全く相手にしなかった。
(今日はハズレかな……)
もちろん、めぼしい相手が見付からない日もある。今日はもう引き上げよう……とため息を吐いて、だが少しだけホッとした様子で、ツナは駅の方へ足を向けた。
だが、パーカーのフードを被り直し、俯きがちに歩きだした瞬間、
「っ……!」
「っと……」
ちゃんと前を見ていなかったため、前方から来た誰かにぶつかってしまう。衝撃でよろめいた身体は、だが強い力で腕を引っ張られたため、転ぶことはなかった。
「大丈夫か?」
「は、ぃ……、っ……」
頭上から降ってきた低い、どこか艶のある声に顔を上げて……ツナは息を飲んだ。
それは、酷く容姿の整った男だった。
すらりとした長身に、隙なくスーツに包まれた、引き締まった身体。切れ長の鋭い瞳に、日本人離れした顔立ち。
女なら一瞬で惚れてしまいそうなその男に、ツナも一瞬見惚れてしまった。
そして、
(……この人に、しよう)
同時にそう思った。
男は見るからに金を持っていそうだったからだ。きっちりと着こなしたスーツも、ツナの腕をつかんでいる左手にはめられた腕時計も、そういうことに詳しくないツナでも分かる程高級そうで。
そして、経験にも豊富そうだった。
「ねェ……」
少し鼓動を速くしながら、ツナは自分の腕をつかむ男の腕に、逆に手を絡める。
「俺とヤらない?」
「……何?」
眉を寄せ怪訝な顔をする男に、ツナはくすりと笑った。
「だから、お金をいっぱいくれたら、俺とさせてあげるって言ってんの」
「………」
「どう?」
意味ありげに腰の辺りを撫でながら、妖艶に微笑んでやる。上目遣いで甘えたように言えば、乗らない男はいない。
男は僅かに目を見開いた後、
「……慣れているようだな」
そう言って、にやりと笑った。その鋭い、獰猛にも見える笑みに、ぞくりと何かが身体を走り抜ける。
「来い」
「ぁっ……!」
強引に腰を抱かれて、男がどこかへ向かって歩きだした。
その横顔を下から眺めながら、ツナは内心男を嘲るように笑う。
やっぱり、この男も一緒なのだ、と。今まで自分を抱いてきた、馬鹿でつまらない奴らと同じ。