From flowery bowers
□第1章
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―――“アイツ”と初めて出会ったのも、
ちょうど、このくらいの時期だった―――――
***
全寮制の男子校……私立“朝理学園”。
とある港町から少し離れた山の中にある、とにかくでかいお坊っちゃん学校。
―――それが……いや、それだけが“彼”の学園に対する唯一の感想だった。
ただ、由緒あるエリート校と聞いてイメージしていたほど、実際は派手でもなく偉そうぶった感じでもない。
むしろ古い歴史を感じさせる校舎は、大きいが落ち着いた雰囲気で好感が持てた。
何よりも緑が豊かで心地が良い。山の中だから当たり前かもしれないが、それだけでなく人の手によって植えられた色とりどりの花や草木は見ていて悪い気はしない。
それは緑が潤いを与えるという一般論だけでなく、自身に所縁があるからだが……
そんな学園に、その“彼”はこの春から通うことになっていた。
三月末にあった合格者説明会の後の、初めての登校日が今日だ。数日後に控えた入学式、そこから始まる学園生活のためのガイダンスや準備がある。
ちなみに入寮日でもあり……今日から本格的に、この学園で生活することになるらしい。
生活に必要な荷物は、数日前にほとんど寮へ送っている。だからほぼ身一つで、地元から遠く離れた港町の、さらに山の中へやって来た。
別にお坊っちゃんではないから学園まで送ってくれるお付きの者もいなければ、タクシーを使うほどの金も勿体なく感じるただの一般人。だから、整えられてはいるが急な斜面を軽くアウトドアな感じで山登りした。
いかにも由緒正しそうな門をくぐれば、前回来たときに咲いていなかった学園の桜がほぼ満開で、「ああ春だな」と当たり前のことを考える。それからしばらく、目の前に広がる庭を眺めていたが……いつまでもそうしている暇はないので、さっさと目的地へ向かって歩き始めた。
先に校舎よりも奥にある学生寮へ向かい、やたら声のでかい寮の管理人らしき男から鍵を受け取る。
寮も、全校生徒だけでなく教職員も使うだけあって大きかったが、校舎と同じく落ち着いた雰囲気の過ごしやすそうな場所だった。
ただ一年生の部屋は別館だったから、校舎から少し遠いというのが億劫かもしれない。
二人部屋で割と広い部屋に荷物を置き(同室の奴はまだ来てないのか、もう出た後なのかいなかった)、貴重品と筆記用具という必要最低限の持ち物だけですぐに出た。