From flowery bowers
□Prologue
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それは―――……
厳しい寒さが遠退き、ようやく春の陽気を感じられるようになった頃―――……
ぽつぽつと桜が花を開かせ、もう間もなく三月も終わりを迎えようとしている―――……そんな、とある日の夜のことでした。
僕は、とんでもなく恐ろしい体験をしたのです―――……
世間は春休みの真っ最中。
その日、僕は教室に忘れた春休みの課題を取りに、夜の学校へ忍び込もうとしていました。
臆病なので、本当は夜遅くにそんな所へなど行きたくはなかったのですが……何せ仲の良い友人達はとっくに地元へ帰ってしまい、学生寮に残っている生徒はほとんどいなかったので、誰か一緒に来てもらうという訳にはいきませんでした。
かといって、根が真面目なのでこのまま宿題をしないという訳にもいきません。
仕方なく、僕は単身不気味な夜の学校へと向かったのです。昼間は何でもない明るい校舎内も、真っ暗で静まり返った時刻では全く別の場所に感じられました。
あ、けど……もちろん夜の学校もとても恐かったのですが、恐ろしい体験というのはこのことではありません。偶然開いていた窓の一つから何とか教室に入り込み、目当ての物を取って一瞬で出てきましたから。
問題は、この後のことでした。
「良かった…早く帰ろう……」
目的を達成したからには、いつまでもこんな薄気味悪い場所に留まっている意味はありません。急いで寮へ戻るまでです。
ところで、学生寮といえば学校の敷地内にあるのですが……何せここは少し、いやかなりお金持ち校なためとにかく無駄にだだっ広いのです。そして寮はその隅の隅に位置しているので、ここからは結構な距離がありました。
そこで僕は校舎裏へ回ると、そのすぐ向こうに広がる林へと足を踏み入れました。ここを通れば、少しだけ寮が近くなるのです。
ここまで来れば外灯の光も届かず、さらに薄暗くなるのですが仕方がありません。
けれど、足早に木々の間を通り抜け、ようやく寮の建物が僅かに見えてくる……その一歩手前のことでした。
「!?」
突然、近くでガサガサと葉の擦れる音がしたかと思ったら……強い衝撃に襲われたのは。
「っ……!」
身体を地面に叩き付けられて、ようやく分かりました。何者かに突き飛ばされたということが。
痛みに呻いていると、背後から伸びてきた手に身体を押さえ付けられてしまいました。