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□鎖縁
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平穏な日常など、一瞬で崩れ去ってしまう。
いや……思えばもっと前から、自分にそんなものはなかった。
だからこれは……恐らくほんの少しの時間だけ与えられていた、唯一の平穏だったのだろう。
***
「ふぅ……」
閑静な住宅街を、一人の少年がゆっくりと歩いていた。
柔らかい薄茶色の髪に、同じ色の大きな瞳。女の子のような顔立ちだが、着ている学校指定の制服は男子のものだ。
恐らく中学生だろうが、幼い顔立ちと小柄で華奢な身体は、彼をさらに幼く見せていた。
だがそれだけではなく、彼は……大人しくて気の弱そうに見えるが、それでいて何か澄み渡った……普通の人間とはどこか違う、清廉された何かをまとっているように感じられる……そんな少年だった。
片方の肩に学校の鞄をかけて、もう片方の手に持つのは近くにあるスーパーの袋。夕飯の買い物だろうか、中には野菜などが入っていた。
それからどれくらい歩いただろうか。しばらくしてたどり着いたのは……小さいが小奇麗なマンションで。少年は玄関を抜けるとエレベーターで数階上へ上がり、その階にある一室へと向かった。
そこまでは、何の変わりもなかったのだ。
だが、
「ぇ……?」
いつものように、鍵のかかっているドアを開けて、他に誰もいない自分の住まいに入るつもりだった。
だが、
「っ…何、で……」
自分の部屋の前には、複数の男達がいて。少年は、そこにいた彼らに……特に、一番前に立っていた人物に一瞬思考を停止させた。
「……お久しぶりですね。ツナさん」
それは少年よりも少し年上の、どこかの高校の制服を着た男で。だがこちらは、大人びた顔立ちに落ち着いた雰囲気のためもっと年上にも見えた。
それだけなら、まだ普通だったかもしれない。
だが、その男の後ろには……
「すみません、こんなに大勢で押し掛けてしまって」
がっしりとしたたくましい体付きに、黒のスーツとサングラスを身に付けた大人の男達が複数名控えていたのだ。格好だけではない、その雰囲気は……明らかに、一般の人間とは違って。
そんな男達に迎えられた、ツナと呼ばれた少年は……
「……何か、用……?」
意外にも、大人しそうに見えてしっかりとした声音で、まっすぐに男達を見据えて言った。ただ、その表情には信じられないといった驚きと、少しの怯えが見えたのだが。
だが、高校生らしき男はそれには構わないで、
「我々と一緒に来て下さい。……あの方がお待ちです」
「っ……!」