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□気になる彼の二面性
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(どうしようかな……)
頭の中で作戦を考える。何か悩んでいる風を装って、庇護欲がそそられるように縋り付こうか。そうして、油断したところを眠らせてしまえばいい。
いや、どうせなら、ついこの間に会得した『誘惑の術』を試してみようか。少し恥ずかしいけれど、相手をその気にさせた方が、一人前の悪魔みたいではないか……と、ツナは謎の自信に満ち溢れていた。
「遠慮せずに、ゆっくりしていけよ」
「は、はい」
優しく笑う兄貴分を見て、少しだけ良心が痛んだが……自分は悪魔だ。人間を騙し、生気を糧とすることがアイデンティティなのだ、と言い聞かせる。
(っ、もう我慢できないし……)
そして、飢えも渇きも理性も我慢の限界である。これまで極上の餌を前にお預けを喰らい、今ようやく手に入ろうとしているのだ。漂ってくる甘い香りに、ツナはすでに呼吸を荒くしていた。
「…………」
「ツナ?どうした?」
軽く驚いた様子のディーノ。ツナは、思いきってディーノの身体に抱き付いていた。より濃厚な香りに包まれて、ごくりと喉を鳴らす。
「ディーノさん……」
「ツ……」
ディーノは、自分よりも小さくか弱い少年を見下ろした。だがそこにいたのは、困ったような顔をしつつも瞳を熱っぽく濡らし、頬を染めた……どこか人間ばなれした色香を放つ何かで。
視線が合った瞬間、弱々しく震えていた唇がニヤリと弧を描き、そこから覗いたのは……紛れもなく悪魔の牙だった。
***
何もかも完璧だったはずだ。狙った獲物に近付き、距離を縮めて、二人きりになって。
誰にも邪魔されることなく、極上の生気を手に入れられるはずだった。
「……っ、え……?」
そこで、冒頭へと戻る。ツナは、今起こっていることが信じられなかった。
教会の奥にある小部屋。もう間もなく日が落ちようとしていて、部屋の高い位置にある小窓からは夕焼けが射し込んでいる。
そんな中、ツナはほとんど身動きが取れないでいた。不意に身体に衝撃を受けたと思ったら、あっという間に床に転がっていたのだ。
さらには、全身に何かが絡んで締め付けられるような感覚。見ると、細いが丈夫な革紐のようなもので、胴体ごと手足を縛られていた。
そして、
「でぃ、ディーノさん……?」
目の前には、ディーノの上等そうな革靴。見上げれば、荘厳なローブを身にまとった彼がツナを静かに見下ろしていた。