蜘蛛の糸に絡まった兎ちゃん

□後悔の渦に飲み込まれる
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カンナが姿を消して、1年と7ヶ月が過ぎた。
幻影旅団員が血眼になって探してもアイツは尻尾を掴ませてはくれなかった。
未だに毎日飽きもせず探し回っているのはマチ、フィンクス、ワタシだ。
他の団員は表立ってはいないものの、探していることをワタシは知っている。





「やぁ◆」


少し足を伸ばして行った街の外れ。
休憩をしていると不意に後ろから声を掛けられた。


「ッヒソカ…!」


現在カンナと連絡を取れる唯一の男。
あの時、コイツだけが洗脳をされず、カンナと共に行動をしていたらしい。
苛立ちを隠さず表すとヤツは憎たらしい顔で笑った。


「クックック☆君が僕に八つ当たりをするのは可笑しいと思わないかい?」

「黙るね」


わかっている。そんなことは、言われなくても、痛いほどに、わかっている。
ヒソカは悪くない。悪いのはワタシたちなのだと。
頭でわかっていても悔しくて仕方がない。
洗脳をされていたとしてもアイツを疑い、武器を向けてしまったことが、死にたくなるほどに辛い。
洗脳が解けた瞬間の苦しみは、もう思い出したくもない程だった。
カンナが裏切者?故郷を捨ててワタシと生きると、涙を流して決断したアイツが?
アイツを誰よりも信用しなければならないワタシこそが、裏切者だろう。
自分への苛立ちは、何をしていても収まらなかった。
人を殺しても、物を盗んでも、拷問をしても。
思いつく限りの発散方法をしたが、駄目だった。
…あぁ、一つ、女を抱こうとは思えなかった。
元々女を抱くことに興味は然程なかったが、今となってはカンナ以外の女などクソみたいだ。


「彼女は帰って来ないよ◆君が彼女を探している限りね☆」


もし、このまま帰って来なかったら?
そのワタシの考えを汲み取ったかのように、告げるヒソカ。
探し続けている1年7か月間、その悪い考えが常に頭にあった。
それほどのことを自分はしてしまったのだと、いくら後悔しても遅い。


「……それでも、探すしか、ないね」


アイツと連絡が取れるヒソカに、≪もう探さない≫と告げれば、それはアイツに伝えられアイツは姿を現すかもしれない。
だが、たとえ会うための嘘でもそんなことを言える筈がなかった。
いつまでも探し続けると、伝えなければいけない気がした。
アイツを諦められるわけがないのだ。


「……◇」


口元には笑みを浮かべながら、眉を下げる奇妙な表情をしているヒソカに背を向けて捜索を再開する。









今日も、いなかった。
アジトのベッドに倒れ込んで溜息をつく。
ベッドも、ソファも、シャワールームも、どこもかしこもカンナの色が濃ゆく残っているこの部屋は、辛さと安心感が入り混じっていた。


「……」


ポケットから端末を取り出し、電話を掛ける。
1年7か月前から毎日している日課だ。
1日3回。
一度だって出てくれたことも折り返してくれたこともない。


「…カンナ」


小さく小さくつぶやいても、静まり返っている部屋にはよく響いた。
アイツが来てからは騒がしかったなぁなんて考え始めるともう駄目だ。
いつまで経っても途切れないコール音を聞きながら、じわりと視界が歪んでいく。


「…ッ」


泣く資格などない。
泣きたいのは、アイツだ。
死ぬほどつらい思いをしたのは、アイツだ。
責められはしても、一ミリも責めることなんてない。
でも、それでも、これだけは文句を言わせてほしい。





「…さむい、ね」




いつの間にかコール音は止み、プーップーッと無機質な音が鳴り響いていた。
端末をソファに放り投げ、シーツに包まり無理矢理目を閉じた。



その呟きが、留守電メッセージに録音されていたとは知らず。







 

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