蜘蛛の糸に絡まった兎ちゃん
□強い想いが込められた傷
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「い゙っ・・・」
『なぜすぐにお申し付けくださらなかったんです』
「だって、俺すぐ怪我治るから」
この屋敷に来て数日が経った。
上半身の着物をはだけさせ、チューブトップブラ姿の俺はゾルディック家執事であるゴトーに説教もどきを受けている。
『ならこの傷はなんですか』
「俺が聞きたい」
『それに痕が残っているものがいくつかありますよ』
「あー、これは兄貴でこれは妹でこれは親父だったかな」
左の二の腕、右胸の上、右太股と順番に指差していく。
あ、親父ってのは義理の親父の星海坊主な。
『他の傷は治るんですか?』
「大体一時間ぐらいだな、貫通は1日もすりゃ治るし」
『この傷はなにかあるんでしょうね』
「なにか?」
『強い想い、とか』
「妹と親父は俺を止めようとしてたっけ」
『貴女さまの強い想いもあるやもしれませんよ。特にこの傷は想い人につけられたとか』
「っな!イルミ喋りやがったな・・・」
顔を赤くする俺の腹の傷に消毒液を染み込ませた綿をちょんちょんとつけるゴトー。
「・・・治って欲しくないって、思ってた」
『なぜです?』
「え、や・・・それは・・・この傷があったらまだふーたんと繋がってられる気がするから、さ」
『ふふ、そうですか。でしたらきっと残りますね』
「そうかな・・・って俺女々しい」
本当にふーたんのことになると今までの俺が崩れ落ちる。
『いいえ、大変可愛らしゅうございます』
「ばーか!」
『カンナさま』
さま付けなんて慣れてない俺は名前を呼ばれる度に体がむず痒くなる。
「・・・ぅん?」
『何かお力になれることがありましたらご遠慮なく申してください』
「ありがと、う」
『いいえ。それから一応1日に2回、朝食の後と夕食の後に包帯を巻き直しに伺います』
「拒否権は?」
『あるとお思いでしょうか』
「・・・イイエ」
『では失礼致します』
笑顔の圧力がすごいんだけど。
部屋から出ていこうとするゴトーの背中を見て逆らったら後が怖いな・・・なんて思っていたら不意にこちらに向き直る。
『きっとその傷が治っても、貴女さまと想いを寄せておられる方の繋がりは消えませんよ』
「・・・そうだといいな」
『では』
キッチリとしたお辞儀をしてゴトーは部屋を出ていった。
「強い想い、か」
あの時のふーたんは俺を殺す気は無かったと思う。腹を狙ってきたから。
そう思うと少し嬉しいけど、この傷に込められた想いはきっと怒りだろう。
もしかしたら憎しみや恨みもあるかもしれない。
対して俺がこの傷を想う気持ちは愛しさしかない。
「皮肉だな・・・」
そう思うと何だか笑えてきてクツクツと喉を震わし包帯を撫でた。
。