自由気儘な猫
□せんせーと買い物
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プルルルルル
突然、スカートの中で携帯が鳴り肩をビクつかせる。
携帯なんてめったに鳴らないから驚く。
【伊達政宗】
「伊達ちゃん?…電話出ていい?」
『あぁ、構わねぇ』
「―――もしもし?」
≪聖、無事か?≫
「大丈夫。メールすんの忘れてたわ…ごめん」
≪いや無事ならいいんだ。…お前車にでも乗ってんのか?≫
「へ?馬鹿倉に送ってもらってるとこだけど」
≪へぇ?小十郎にかわってくれ≫
「ん…馬鹿倉ぁ、伊達ちゃんがかわれって」
『…わかった』
道の隅に車を寄せた馬鹿倉に携帯を渡して飴を取り出した。
煙草吸いてぇなー…なんて思っているとなぜかかしこまった様子で話し出す馬鹿倉。
『もしもし。……はい……これからスーパーに付き添う予定です』
敬語?なんでだ?
『なっ?!……政宗様、それは出来かねます。……またの機会になされよ』
政宗“様”?
『…はい。…佐々木、ほらよ』
「お…もしもし?」
≪小十郎にちゃんと送ってもらえよ?≫
「うん」
≪じゃあまた明日な。Good bye≫
「また明日」
プツリと電話を切り、再び車を発進させた馬鹿倉に伊達ちゃんとどういう関係かと聞けば『使用人だ』とかえってきた。
「ふーん、伊達ちゃん金持ちなんだ。にしても馬鹿倉が使用人って可哀想だな」
『…なにか言ったか』
「別に。あ、そこのスーパー」
家から近いスーパーが見えてきて、そこに入ってもらう。
カゴを手に取ると横から馬鹿倉に奪われて睨むと持ってやると言われた。
「だから嫌いなんだよね……」
『親父さんとは気が合いそうだな』
「黙ればーか」
バシッと軽く腕を叩き、次々とオムライスの材料をカゴに詰めていく。
親父がいればこんな風に買い物したりしてたのかな、なんてらしくない事を考えながら。
「じゃ、ここでいいから」
『いいのか?』
「歩いて5分ぐらいだし」
『そうか、気をつけて帰れよ』
「ん」
買い物袋を片手に、車に寄りかかる馬鹿倉に軽く手を振る。
「…仕方ないから明日も朝から行ってやるよ」
『フッ…あぁ』
「また明日な、………こじゅ」
『―――っお前……あ、おい!!』
自分で言っておいて堪らなく恥ずかしくなったあたしは一目散に走り去った。
馬鹿倉…こじゅが何か言ったけど無視してただひたすら家に向かって走る。
別に、あだ名を変えたのに深い意味はない。
ない…はずだ……。
「お、親父に似てるからとか…んなんじゃないからな!」
誰に言い訳してるのか自分でもわからないけどとりあえず言いたかったのだ。
『どうした?』
「うわ!……って、チカかよ…」
『“うわ”ってなんだ、“かよ”ってなんだ…。ったく折角待ってたのによ』
「あー…ごめん」
『いいけどよぉ……その、親父さんがどうかしたのか?』
知らない間にマンションの下に来ていたようで、フロントの柱に寄り掛かって待ってくれていたチカにさっきの独り言を聞かれたらしい。
あたしの過去を全て知っているチカは“親父”って言葉に気まずそうにしている。
「…んーん、違う。アイツが親父に似てたから」
『片倉先生がか?』
「そ。なんか似てる」
『……そうか』
「ばーか、ほらオムライス食うんだろ」
暗い雰囲気を吹き飛ばすようにチカの腕を引きエレベーターに向かった。
(そんな顔のチカは)
(見たくない)