やんちゃひめとちしょうさま

□どろだらけ
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「元就様……」

『今度は何ぞ』

「名を、呼んでくれませんか」

『…椎那』


本当に恋とは不思議なものだ。
名前を呼ばれるだけで胸がきゅんっとするんだから。


「えへへー…」

『名を呼ばれるだけで嬉しいのか』

「はい!元就様に呼んでもらうと幸せです」

『……そうであるな。我も椎那に名を呼ばれると安心する』

「本当ですかっ?ならずぅーっと名を呼びますね!」

『今のままでも十分であろう』

「元就様も、呼んでくださいね?」

『……わかっておるわ』


不意に手を握られてそっと唇が重なる。
触れるだけで甘くて溶けそうな元就様との口付け。
最初こそぎこちない優しさだったけど、今では毎日どろどろに甘やかされている。


「ん……っ」

『この先も、我の側におらねば許さぬぞ』

「ふふ、当たり前です。去れと言われても去りません」


ニッコリと微笑んで言えば元就様は足を手拭いで拭き、裸足のまま庭に降りた。


「元就様?」

『……』


すたすたと歩いて行ったと思えば手に白い花を持ってこちらに帰ってくる彼に、思わず濡れたままの足で駆け寄る。


「わぁ、白い桔梗ですか!」

『先程の花とこれは部屋に飾るか』

「はい!!」

『それはそうと……また足が泥だらけではないか』

「……あー、ごめんなさい…気を付けます」

『そうではない。それが椎那、お前の良さであろう。直さずともよいわ』

「そう、ですか?」

『我がそう申しておるのだ。不満か?』

「っいいえ!私、怒られるか呆れられるかだったから、そんな風に言ってくれたのは元就様が初めてです」


ぎゅうっとしがみつくように抱きつけば頭を撫でられる。
二人とも裸足で足には泥がついていて。
このお方を冷徹で冷酷な人だと言う者にこの姿を見せれば開いた口が塞がらないだろう。
見せてあげないけどね。


「本当の元就様を知っているのは、私だけだと思っていいですか?」

『…当たり前ぞ』

「えへへ…嬉しい、です」


本当の元就様…馬鹿にしながらも一緒にやんちゃしてくれる、優しいお方。
無表情なんかじゃない、小さいけどたしかに表情をあらわしている。


『……そろそろ泥を落とさねば侍女に―――』

『ひーめーさーまー!!』

「っお、お菊……」

『もう!元就様まで!!』

「ちが…違うのよ、お菊〜……あのね、白い桔梗の花があって元就様が摘んでくれたのよ」

『……新しい手拭い、置いておきますからお使いください』

『…貴様も、椎那には甘いな』

『元就様こそ、姫様には随分とお優しいでございましょう。お菊にとっては嬉しい事でございまする』

『……ふん』

『さぁ、早く此方へ。団子をお持ち致しました』

「お団子?!お菊のお団子はすごく美味しいんですよ、元就様食べましょう!」






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