やんちゃひめとちしょうさま

□おもいがつうじたひ
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「元就様は、私が貴方様を嫌っていると思ってるんですか?」

『……それ以外になにがあるのだ』

「嫌っているのは貴方様でしょ?」

『…………何故そう思う』

「あの日以来、顔も合わさなかったからです。嫌いな相手ならば会いたくないに決まってますから」


あぁ、自分で言ってて泣きそう。
情けない顔を見られたくなくて座ったまま俯くと上から溜め息が聞こえてビクッと肩が跳ねた。


『其方がそれほど能無しとは……』

「っ……」

『馬鹿者が』

「そんなこと言いに来たならさっさと帰って!!私がいらないなら、そうハッキリ言えばいいじゃない…っ!」


敬語が消えたことにすら気付かない程に頭に血が登った私はゴシゴシと目に溜まった涙を拭う。


『……人の話を最後まで聞かぬか』

「な、によ……っ!」

『そんな下らぬ事の為に我は政務を後回しなどせぬわ。まして探し回るなどと』

「なら―――」

『言ったであろう、“心配した”と。……なぜ城をでた』

「っ……私は城が、嫌いです…。窮屈で仕方ない…だから外に出ただけです」

『ならば侍女に一言申せばよかろう』

「駄目だと言われるに決まってます」

『……ならば我に申せ』

「へ……?」

『海などいつでも来れようぞ』


その言葉に思わず顔を上げて元就様を見上げる。


「で、でも元就様は私が嫌いでっ」

『我がいつ嫌いだと申した。嫌いならば妻になどしておらぬわ』

「……私は、邪魔ではないですか?」

『ちょこちょこされるほうが邪魔だ』

「私がいても、貴方様にはなにも良いことがありませんよ…?」


私はこんなにもちっぽけで、いてもいなくても同じ存在だもの。
むしろいないほうが良いぐらいだ。


『それを決めるのは我ぞ』

「ですからっ」

『……何故、分からぬ』

「え、あ……元就様……?」


ぱしゃっと水の跳ねる音が聞こえたかと思えば目の前が緑に染まり、背中に腕がまわされる。
座ったままの私を、元就様は自分の着物が濡れるのにも関わらずしゃがみこんで抱き締めているのだ。
なにがなんだか分からなかったけど、胸がきゅうっと締め付けられて苦しかった。


『好いておる……』

「……へ?」

『其方を好いておると申したのだ』

「元就様が、私、を…?」

『何度も言わせるな馬鹿者』

「っ……」


嬉しい、さっきまで悲しくて惨めで仕方なかったのに、貴方のたった一言でこんなにも救われる。



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