出逢った意味

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『総悟、真紀。近藤さんが呼んでる』

「近藤、さん?」

『俺らの大将でさァ』

「ふーん。あのさ、なんか服貸してくんない?破れてるし……」

『隊服のシャツなら真紀も着れるだろィ?ホラ、下はそのままでいいんじゃねーですかィ?』


あたしは総悟からカッターシャツを受け取り、二人を追い出した。


「ん。こんなもんか?」


第二ボタンまで開け、胸の絆創膏を確認して二人が待つ部屋の外に出る。


『おし、行くぞ。』

「総悟、みんな黒い服?」

『そうでさァ。まぁいまの季節、あちぃから上着は脱ぐかもしれねぇ』

「そっか。慣れないとな……」

『着いたぞ。……近藤さん俺だ。連れてきたぜ』


襖越しにトシが言うと元気な声が返ってきた。


『おぉ!入ってくれ!!』

「うひゃー緊張する」


緊張するあたしを他所にスッと襖を開けて入っていく二人。


「……失礼しまーす」

『君が急に現れた子だね?』

「桜樹真紀だ……です」

『ははは!!緊張しなくていい。これから一緒に生活するんだ。堅いのはやめよう。敬語もなくていいさ。な、真紀ちゃん』

「……お世話んなります」


ニコニコ笑う近藤さん。
あ、何か……


「母さんみたい」

『ふっ……近藤さんが母親なら父親は土方さんですかィ?』


“父親”、その単語にざわりと身体中が反応する。

――お前はただの道具だ――

ゾクッ


「……トシはガラ悪い兄貴」


そう言ったあたしの目は驚くほど冷めきっていただろう。


『ったりめぇだ。父親なんかやってらんねぇよ。ただガラ悪いってなんだてめぇ!!』

「だって煙草吸ってんだろ?」

『……なんで分かった?』

「匂いと、勘?」

『ほぉー真紀ちゃんは勘が鋭いのか!』


ガハハッと笑う近藤さん。


『そういや近藤さん。コイツの配属は?』

「?」

『あぁ、ここに住む以上なにかしら働いてもらいたいんだが……』

「働かざる者食うべからずっつーことね。それならあたしもここの隊士にしてくれないかな」

『『なっ!』』

『しかしなぁ……女の子だからなぁ……』

「お願いします。武道に、女も男もないだろ?戦にでりゃ女子供も容赦なく斬り捨てられるんだ。それにあたしには剣道と空手しか取り柄が無いんです」

『……分かった、いいだろう』

『オイ近藤さん?!』

『ただし、ここの隊士に勝ったら、だが』


つまり―――


「勝てば、いいんだろ?」

『早速真紀ちゃんの入隊試験をしよう。トシ、隊士たちを稽古場に集めてくれ』


近藤さんに言われてトシは渋々隊士を集めにいった。


『近藤さん!!』

『真紀ちゃんは本気だ。知らない地に来て混乱しているだろうに覚悟を決めた真っ直ぐな目をしている』

「……近藤さん、ほんとあたしの母さんみたい」


あたしが剣道やりたいって言った時に母さんが言った事と同じことを言う近藤さん。


『はっはっは!!お母さんと呼んでも良いんだぞ』

「ぶっ、良いんだ。……な、稽古場?行こうよ」


あたしの一言で局長室を後にした。
ぽんっ。
稽古場に行く道で総悟に頭を撫でられる。


『無理すんなよ?まだ痛むんだろィ』


「あー……うん。誰かさんが包帯巻くの下手くそだからな」

『…………』


ありゃ、怒ったか?


「嘘、嘘だって。でもまた後で巻き直してくんない?」

『任せなせェ』

『真紀ちゃん入るよ?』

「あっ、はい!」


いつの間に着いたんだろ。
近藤さんの後に続き入ると黒い隊服を着た大勢の隊士が一斉にあたしを見る。


「まじかぁ……」


誰にも聞こえないはずの独り言。


『おい、てめぇら。暑苦しいんでィ。上着ぐれぇ脱ぎなせェ』

『『『は、はいぃ!!』』』


総悟がジロリと一睨みすると慌てて脱ぎ始める隊士たち。


「……ありがと」

『なんの事でィ?俺ァただ暑苦しいと思っただけでさァ』


ぷいっと顔を背ける総悟。


「ふはっ…そっか」


不器用、なのか。


『今からこの子、桜樹真紀ちゃんの入隊試験をする!!』



 

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