蜘蛛の糸に絡まった兎ちゃん

□悪魔と兎と蜘蛛と
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父さんに連れてこられたのは人の気配が全くと言っていいほど無い廃墟。
蜘蛛のアジトよりは綺麗だけど。
反抗する気力も勇気もない俺は言われたことを淡々とやっていた。
神威や神楽を真似してオレンジに染めた髪を元の黒髪に染めなおし、同じく二人を真似していた瞳の色も青のカラコンを外し元の紅に戻した。


『来い』

「…」


グイッと引っ張られて入った部屋にはキングサイズのベットとトイレと浴室が内設されていた。
そしてベットの頭上には鎖がある。
これで俺の両手を拘束するつもりなんだろうなんてぼんやりと考えていたらベットに押し倒されて馬乗りになられた。


『どれだけ俺がこうしたかったか』

「…っん」


乱暴にキスをされ、その隙に両手にガチャリと金属の感触がして拘束されたんだと気づく。


『くっくっく、その瞳だ。全てを諦めたような…絶望して光を失った瞳』

「…」

『それでいい。お前は俺の言うことを聞いてればいいんだ。光なんか浴びなくていい、見なくていい』

「…」

『わかったな?』

「はい」

『そう言えば黒マントの男が好きなのか?』

「っ…いいえ」

『そうか、俺が言った事覚えているようだな』

「人を愛する権利は無い、でしょ」

『いいこだ』


機械的に、父さんの喜ぶ答えを吐く。
満足そうに笑った父さんは俺の着物の胸元を開き顔を埋める。


「ふ…っん」

『あれから誰かとヤッたか?』

「してな…っ」


神威の所に行ってからはずっと神威や神楽が俺にくっついてたから誰ともそんな関係になっていない。
言い方を変えると俺の身体はこの男しか知らないってこと。


「あ…っや…」

『もっと鳴け』

「んんっ!ああ…っ」


気持ち悪い、気持ち悪い。
腰を振るこの男も、自分の身体も。
キモチワルイ





「はあっ…はあっ」

『よかったぞ、栞七』


この部屋でこの男と身体を重ねて何時間経ったのかも、何日経ったのかもなにも分からない。
休む暇もなく何回も何回も行為を求められ、何十回も精を受け入れた。声は掠れてまともに話せるかもわからない。


『もう限界かぁ?』

「ごめ…なさ…」


声を必死に絞り出すとどこから持ってきたのか手には鞭が握られていてベッドに膝立ちにさせられ思い切り鞭で打たれる。


『悪い子にはお仕置きが必要だな』

「うぐっ…」

『髪…切っちまうか』


背中を打つのに下ろした髪が邪魔だったようでナイフでザックリと切られ、ふーたんが褒めてくれた髪がベッドに落ちるのが見えて涙が出てくる。
結局無造作に切られた髪は肩につくかつかないかの短さになった。


『ショートヘアも似合うぞ栞七』


それから背中を何十回と叩かれ、焼けるような痛みに歯を食いしばって耐えていると急にピタリと動きを止めた。


『チッ…もう見つかったのか』

「…っごほ」

『これに着替えろ』


そう言われて鎖を外してもらい、渡された着物に着替えると次は首と両手首を鎖で繋がれ、包帯で目隠しをされる。
その瞬間に言いようのない恐怖が頭を支配し、いやいやと首を振る。


「い、いや!!お父さん!!」

『目隠しをされると昔をよく思い出すだろ?』

「外して!!!」


8年前から神威の所に行くまでの2年間、窓もない部屋に目隠しをされて監禁されていた時の恐怖が戻ってきて身体がガタガタと震え出す。


「いや…お父さんお願い…」


掠れた声でどれだけ叫んでも父さんは目隠しを取ってくれなくて別の部屋に連れて行かれた。
椅子に座らされて少しすると複数の気配が殺気を隠すことなくこの部屋に入ってくる。


『カンナ!!!』


未だに目隠しの恐怖から抜け出せず、体力も精神も限界の近い俺はその気配が誰なのか、俺の名前を呼んだのが誰なのか分からなかった。
それよりも早く目隠しを取ってほしくて父さんに頼み続ける。


「お父さ…お願い…っ言うこと聞くから…!もう、光なんか望まないから!!」

『2年間耐えれたんだから耐えれるだろう?』

「いやだ…っ!」

『俺の言うことが聞けないのか?』

「っ…」

『いいこだ。さて、カンナ、お前に客だ』





『カンナ!!』

『カンナは返してもらうよ!』

「―――っ!!」


なんで、追ってきたんだよ。諦めたのに。


「駄目…帰って…」

『っな…?!』

「俺なんか忘れて早く帰れ!!」

『ふざけんじゃねぇぞ、そんなボロボロなお前をほっとけるかよ!!』

「こんな傷一日もすれば痛くなくなんだよ!」

『何をそんなに怯えてるか』

「いいから!!…頼むよ、誰かが俺のせいで傷つくのはもう嫌なんだよ…」

≪それは、俺のこと?≫

「―――か、むい…?!」


神威の声がして目隠しで見えないくせにきょろきょろと首を動かす。


≪あの時みたいに来たよ。といっても携帯越しの声だけだけどね≫

「神威…っ」

『あの時のくそ餓鬼か』

≪異世界に飛ばしてまでそんなにコイツが欲しいのかい?≫

『コイツ程の上玉はいねぇからなあ』

≪ま、それは俺も同感だね。俺も何回か襲いそうになったし。ねぇ栞七≫

「な…に?」

≪あの時みたいに、素直になればいいんだよ≫

「っ…」


≪あとさき考えなくていい。君の仲間はそんなに壊れやすいのかい?≫

「でも…!」

≪大切な男がいるんだろ≫

「!!」


なんで神威知ってんだよ…俺がふーたんが好きだって。


『やっぱり、好きな奴がいたのか』

「っ…」

『くっくっく…言ったのになァ、お前に人を愛する資格なんか無いってよ』

『なんだと…?!』

『まあ、コイツが俺とどんな生活をしてたか知ればお前も幻滅するだろうな』

「っやめて!!」


言わないで、言わないで。


『言てみるね』

「ふーたん!!!」

『お前黙てるよ』

「わかってよ…ふーたんに聞かれたくないんだ…」

『なぜか』

「っ…ふーたんが好きだからに決まってんだろ!!」

『…ととと話すね』

「ふーた…」

『お前が好きだから、ワタシ聞くね』


声がいつもより低く聞こえてそれ以上なにも言えなかった。
俺が、汚れてなかったらふーたんとずっと一緒に居れたんだろうな。
普通に告白して、笑っていれたんだろうな。
黙りこくった俺に笑って父さんが話し始めた。




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