蜘蛛の糸に絡まった兎ちゃん
□兎は兄妹が大好きなようです
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こっちの世界に来てからどれぐらい経っただろう。
特にすることもなく、瓦礫の山に寝転び傘をさして顔を隠す。
「(神威と阿伏兎とはたまに連絡とってるけど…やっぱり常に一緒だったからつまんない。退屈だ)」
その感情を寂しいということは誰も教えてくれない。
彼女が感じる感情は戦闘時の湧き上がる楽しみ、自分の大切なものに傷をつけられた時の激しい怒りが大半を占めている。
それから大事な存在が消えてしまうことへの恐怖。
家族愛はあるものの、恋愛感情は知らない。
―寂しい、悲しい、愛しい、憎い―
こんな感情はいらないと思っている。
だがこの状況で無意識に寂しいと思っていることを彼女は知らなかった。
「(神楽…元気かな。あっちの世界でも俺は宇宙、神楽は地球で滅多に会うことなんか無かったのに。会おうと思っても会えないと思うと無性に会いたいなー…)」
『カンナ』
「あ、クロロ?」
『その傘、えらく大事にしているんだな』
「これ、餓鬼の頃に兄貴と妹が少ない小遣いを寄せ集めて買ってくれたんだ」
『妹もいるのか』
「2、3年会ってねぇけどな」
『?妹は何をしている?』
「地球で人間と平和に暮らしてる」
『なぜお前と兄と一緒に海賊に入らなかったんだ?』
「アイツは俺らと違って夜兎の血を嫌ってるからな。戦うのが嫌だって、戦闘本能に必死で逆らって生きてる」
何度か春雨に来ないかと誘った。
その度に追い返され、戦わないと頑なに言い張っていた。
『何ねそれ』
特徴のある喋り方に身体を起こすとやっぱりふーたんだ。
『なぜ力があるのに使わないか、理解不能よ』
「んー…たぶんアイツは守るために使いたいんだと思うよ。俺と神威はただ強い奴と戦いたいだけだから俺には神楽…妹の考えはわかんねーよ」
『弱いね』
「ふーたん、時々神威に似てるな」
クスクスと笑えばなぜか頭を思い切りしばかれて地面にめり込む。
「いったー!ちょ、ふーたん何だよ…」
『なんかむかついたね』
「やっぱ似てる…」
『も一度地面に埋まりたいか』
「絶対嫌だ―――…っ!!」
『カンナ…?』
何か、来た。
ふーたんとクロロの声を振り切り、アジトを飛び出し気配のする方向へと猛ダッシュする。
『…フェイタン』
『またく世話かかる奴ね』
辿り着いたのは人通りの少ない路地裏。
そこにいたのは10人の…春雨の団員?
どこの所属かは知らないけど、船の中で何度か見かけたことがある。
「…」
『貴様…まさか第七師団の…!!』
「ご名答。で、お前らは何でここに来た?」
『貴様に答える義理は―――』
「へぇ、俺に口答えするんだ」
口答えをした団員の首を掴んで壁に押しつける。
その瞬間、武器を構えた他の団員に囲まれた。
「おー、ちょっとは楽しませてくれんの?」
『ふざけるな!!』
『前々から思っていたが貴様の師団は春雨の邪魔者だ!!!』
「…邪魔?てめえらの後処理してやってんの俺らだけど」
『そんなもの、他の師団でも出来ることだ』
「それってさ…俺を侮辱してんの?阿伏兎を侮辱してんの?第七師団を侮辱してんの?それとも―――」
ふつふつと怒りが湧き上がってくるのを押さえられない。
「神威を…侮辱してんの?」
『ひぃ…!!』
「質問に答えろよ」
『がっ……ぎゃああああ!!!』
少し力を込めれば首と身体が離れ離れになる一人の団員。
『貴様…よくも!』
「同じこと二回も言わせんじゃねーよ」
『ぐあああああ!!』
「あー、もういい死ね。お前らに聞いても埒あかねえし」
ブシュッ
一気に9人の首を跳ねて当然の如く返り血を頭から被ってしまった。
今日は白い着物だったの忘れてた。
あちゃー、と着物を見下ろすとふーたんが近づいてくる気配がして顔を上げる。
『お前…血、かぶりすぎね』
「へへへー…」
しかめっ面で言われて苦笑いで誤魔化しながら口の横についた血を無意識に舌で舐めとる。
『!!(何か、この色気は…)』
「ふーたん?」
『っ何もないね、ととと帰るよ』
「わ…」
ふーたんに手を引かれて人目に付かないような道でアジトへと戻っていく。
ふーたんの手、温かいな…なんて思ってると眉間に皺を寄せたふーたんが俺を見ていた。
『何ね』
「ふーたん、手温かい」
『な、なに言てるか普通ね』
「俺冷え症だから冬とか辛いんだよねー」
『なら………ね』
「へ?」
『なら、ワタシの手…握てればいいね』
「―――っ!!」
顔を背けるも、耳まで赤いふーたんに俺までもが照れる。
…違う、ふーたんが照れてるからじゃない。
初めて手、繋いだ時と同じだ…なんなんだろこれ。
『…なぜ黙るか』
「え、や、あの……嬉しく、て…さ」
自分の言った言葉に耳を疑う。
嬉しい?でも、強い奴と戦ってるときとは全然違う。
俺おかしい…。
悶々と考えているといつの間にかアジトに到着していて、目の前には呆れ顔のマチとクロロ、楽しそうなフィンとシャルがいる。
。