自由気儘な猫

□せんせーと買い物
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『待たせたな』

「待たされた」

『……ホラよ、寒かっただろ』


ポイッと投げられたのは温かいココアの缶だった。
思わぬプレゼント(?)に暫く固まっていると腕を引かれて保健室を出る。


『ココア、嫌いだったか?』

「…大好き」

『そうか』

「馬鹿倉のくせに…」

『お前いい加減その呼び方やめろ』

「阿呆倉」

『…………』


そう言うと無言で車の助手席に押し込められ、馬鹿倉は顰めっ面で運転席に座った。
左側から見れば良く分かる彼の頬にある傷痕。


「……傷」

『ん?あぁ、コレか』

「隠さないの?」

『別に気にしてねぇな』

「…あっそ」

『怖いか?』

「別に…そんなんじゃない」

『そうか』


そっぽ向くように窓の外に視線を移すとくしゃりと髪を撫でられて固まる。
不器用な手つきで、限りなく優しくて、泣きたくなるぐらいに親父に似てるんだ、コイツは。


「…お前、嫌いだ」

『なんでだ?』

「親父に似てるから」

『親父さん、嫌いなのか』

「嫌い」

『…親父さんはなにしてる?お前一人暮らしだろう』

「外国で好きに生きてるんじゃないの。生活費だけは大量に送ってくる」

『ほう…』

「………あたしが強くなったら、会いに来るって」

『強く?』

「今までも何回か来たけど、ボコボコにやられて…またアイツは外国に行った」

『なんでそんなこと…』


なんで、か。
やっぱり親子が殴り合いなんておかしいんだろう。
一度馬鹿倉に視線を向けて、再び窓の外を見る。


「親父、女好きでさ。浮気なんか日常茶飯事って感じ?それでも母さんを本気で大切にしてるの知ってたし、仲が良い家族だった」

『…?』


急に家族の事を話始めたから馬鹿倉はきょとんとしている。
そんな顔しても可愛くない…つーか、いかつい。


「でも、あたしが9歳の時に一人の女が家に来た事で全部壊れた」

『…親父さんの浮気相手、か?』

「うん。その時、家にはあたしと母さんだけでさ…なんでアンタなのよ!とか叫んで拳銃を構えだしたんだ」

『っ拳銃だと?』

「……二発の銃弾を受けて、母さんは死んだ。あたしも一発受けたけど痕が残る程度」

『な…っ』

「母さんとあたしを消せば親父と結婚出来ると思ってたらしいよ」

『…それで、親父さんは』

「母さんが死んで、あたしも怪我をして、親父はパタリと女達と縁を切った。それから数日後に親父は家を出て行ったんだ」

『なんでだ』

「…さぁ。親父が出て行ったのをきっかけに、あたしはひたすら喧嘩の日々。引き取ってくれた親戚の奴らが止めても喧嘩三昧」


かすがは泣いて止めた事あったっけ。


「どうせ、あの馬鹿はこれ以上一緒にいればあたしをまた危険にさらすことになるとか思ったんだろーね」

『……』

「だから、襲われても死なないようにあたしは強くなろうと思った」


認めたくはないけど、あたしはまた親父と一緒に暮らしたいんだと思う。
認めたくないけどな!!


『…嫌いとか言って、親父さんの事好きなんじゃねぇか』

「―――っは?!」

『くく、素直じゃねぇな』

「だれがあんな奴!」



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