やんちゃひめとちしょうさま

□げんきのみなもと
1ページ/1ページ


『…………』


元気がないです。
誰がって、私の大好きな大好きな旦那さまが。


「元就様ー」

『……ん…?』

「うわぁ可愛い」


縁側に座り顔だけを私に向けて首をこてんと傾げる元就様は普段の鋭さはゼロで物凄く可愛い。


『……椎那の方が可愛いであろう』

「っは?!」

『なにか、間違っておるか?』


誰だ、このお方は。
雨が降るとこんなにも変わるの…?!
あぁ遅くなってしまったけど、今日は元就様の大好きな日輪が黒い雲に隠されてしまっているのだ。
雨粒を降らす空を見上げて元就様はぼんやりとしている。


「……明日にはきっと晴れます」

『そうだと、いい』

「私も雨は大嫌いです。寂しくなってしまう」

『寂しい、だと?』

「…知ってますか?雨が降るときは、誰かが悲しみに溺れているときなんですよ」


誰かが言っていた…あぁそうだ死んだお母様が言っていたんだ。
お母様が死んだときだって土砂降りだったもの。


『ほう……』

「その人の涙を隠すためだとか、慰めだとか、色々ありますけどね」

『……今日も、誰かが悲しんでおるのか』

「私は、そう思います…」


だから私も雨の日は大人しい。
ふと気を緩めると泣き出してしまいそうになる。


『やはり雲は憎きものぞ』

「元就様?」

『椎那にそのような表情をさせるなど許すまじき行為よ』

「えへへ…私は雲も良いと思いますよ。元就様が可愛らしくなるから」

『……晴れたら覚えておれ』

「え゙」

『フンっ』


お茶を淹れて縁側へ行き、元就様の隣に腰を下ろす。
雲の向こうにある太陽を見つめているように儚げな元就様の横顔に少し笑う。


『…なんぞ』

「いえ、日輪は貴方様の元気の源ですね」

『何が言いたいのだ?』

「ふふ、気にしないでください」

『……確かに、日輪が拝めなければいつも通りとはいかぬが、そなたがおれば我はそれでよい』

「っ…もう、ほんとに元就様はずるい人」

『どういう意味ぞ』

「これ以上元就様への気持ちが大きくなったらどうしてくれるんですか?」


日に日に、元就様に依存していく自分に気付いたのは最近のことで。
元就様は武将で、いつ死んでしまうかわからない状況にいる人で。


『そなたの元気の源とやらも、我であるというだけであろう』

「へ…?」

『……違うと申すのか?』

「…ふふ、そうですね!」



(お互いが元気の源なんて)(なんだか素敵ですね!)
(………ふん)
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ