やんちゃひめとちしょうさま

□どろだらけ
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「元就様!元就様っ!!」


パタパタ
スパンッ


『……何ぞ』

「見てください!桔梗ですっ」

『ききょう、か』


手に握った綺麗な紫色の花を元就様に見せると呆れながらも微笑んでくれる。
それが嬉しくて一歩部屋に踏み込むと後ろから慌て来た侍女のお菊に止められた。


『御待ちください姫様!!』

「へ?」

『ご自分の姿を確認してくだされ』

「……あは、ごめんなさい元就様」


咎めるような口調に視線を落とすと足も着物も泥で汚れている自分の姿が見えて苦笑い。
雨上がりの庭を裸足で駆け回っていたからだ。


『やんちゃ者が』

「えへへ…縁側をお借りしてもいいですか?」

『別に構わぬ』

「お菊おんぶ―――っきゃあ?!」


このまま入れば部屋が汚れてしまう、とお菊に運んでもらう為に振り返ったところで突然の浮遊感に悲鳴をあげる。
いつの間にか側に来ていた元就様に横抱きにされていたのだ。


「も、元就様?!」


抗議の声を上げるも、元就様はスタスタと私を抱えたまま縁側へと向かう。
細くて無駄な贅肉がないこの体のどこにそんな力があるのか…いちいち男だと思い知らされる私の身にもなってほしい。


「ありがとう、ございます…」

『もう少し頼らぬか』

「゙……はい」


不貞腐れたような顔をする元就様に少し笑うとむにーっと頬をつままれた。


「いひゃいれふっ」

『……間抜けな面だな』

「ほほはりひゃはほへいれふほ(元就様のせいですよ)」

『何を言っておるのかわからぬわ』


パッと頬を離されて意地悪く笑う元就様を軽く睨む。


『姫様、これで足をお洗いくださるよう』

「うん、ありがとう」


差し出されたのは水の入った桶と花瓶で、桔梗を花瓶に挿して庭に桶を置き縁側に座って足をつける。
初夏の日射しを浴びながらひんやりと冷たい水に足をつけるというのは物凄く気持ちがよかった。


「元就様、お仕事はいいんですか?」

『今日は然程ない』

「なら少し休憩しましょうっ」


すっかり綺麗になった足を手拭いで拭き、桶を持って部屋を出る。
用意された新しい着物に着替えて私が向かった場所はお菊がいる部屋。


「お菊!これに新しい水を入れて」

『かしこまりました』


そしてその桶を再び部屋に持ち帰り縁側に座る元就様の足元に置く。


『……?』

「すごく気持ちいいですよ!日向ぼっこしながらゆっくりしませんか?」

『…そうだな、日輪を浴びるのには賛成だ』

「でしょう?」


縁側に二人で座って、足を同じ桶の中に入れてゆったりとする。
こんな幸せが訪れるなんて以前の私ならば微塵も思っていなかっただろう。


「ねぇ、元就様?」

『なんだ』

「大好きです」

『っ…急に何を言っておる』

「幸せな時に言っておかないといけない気がしたから」


足で水をぱちゃぱちゃと揺らし、笑って言えば元就様は眉を潜める。
この仕草は元就様の照れ隠し。
一度見つければ簡単にわかってしまう元就様の感情、だけど知っているのは私だけ。



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