やんちゃひめとちしょうさま
□おもいがつうじたひ
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元就様の妻になってから一週間がたった。
以前迷子になった時から元就様とは話はおろか、顔すら合わせていない。
恋心に気付いた私はなんとか話をしようと城を探し歩いたけど、その度に迷子になり侍女たちに怒られるの繰り返しだった。
諦めた私は誰にも見つからないように城を抜け出す。
これでも我慢したほうだと思う。
綾小路家の城にいた頃は毎日抜け出していたんだから。
「んーっ!やっぱ外は気持ちいい」
動きやすい着物に身を包んだ私は海に来ていた。
裾を摘まみ裸足になり、砂浜を歩き、波に足を濡らされ、ぱちゃぱちゃと遊ぶ。
「海って広いなぁ……」
本当に思う。
海は広くて大きくて、何処までも続いている。
空だってそうだ。
自分はなんとちっぽけな存在か、つくづく嫌になる。
「いてもいなくても同じ……なんだろうな」
この世界にとっても、元就様にとっても。
それが無性に悲しいなんて、私は本当に馬鹿になってしまった。
元就様に必要とされたいなんて、名を呼んで欲しいなんて。
私はなんて人に思いを寄せてしまったんだろうか。
「元就様……」
私は貴方様の名前を口に出すだけで胸が苦しいほど、ろくに顔も合わせない貴方様にこの心は奪われてしまいました。
きっと貴方様は私が城にいないことにすら気付いて無いんでしょう?
「元就様の、馬鹿」
『誰に申しておるのだ馬鹿者』
「―――っ?!」
いきなり聞こえた声に振り返ると、珍しく息を切らして汗だくになっている元就様の姿。
「もと、なり様……っ」
『……』
「なぜこんな所に……」
ずんずんと無言で距離を詰めてくる元就様に少し怖くなり思わず後退るとバランスを崩して水の中に尻餅をついてしまった。
浅かったからよかったものの、着物は見事にびしょ濡れ。
先程とは変わり、少し焦りの表情を浮かべた元就様が裾が濡れるのも気にせずに私の側まで駆け寄ってくる。
「きゃあ…っ」
『っ椎那!』
「いったぁ〜……」
『馬鹿者!!』
「う、すみませ―――」
『怪我はしておらぬか?!』
「……へ?」
『足を捻ったりなどしておらぬだろうなと聞いておるのだ』
「あ、はい大丈夫です」
あれ……?心配された?
しかも名前、初めて呼んでくれた。
いやいやそんなことより、なんで元就様がこんな所に……
『勝手に城を抜け出しおって!!!』
「っ」
『我がどれだけ……っどれだけ心配したかわかるか!!』
「っ……元就、様?」
『まだこの地も安泰とは言えぬのだ!何かあってからでは遅いのだぞ!!』
「……っ」
『…っ城を抜け出し危険を承知でこのような所に来るほど我が嫌いか!』
「へ…?」
この人は、何を言ってるのだろう。
私が元就様を嫌い?
そんなこと、有り得ないのに。
嫌いになりたくてもなれないというのに。
。