Lost Feeling

□はじまり
1ページ/1ページ


必死で逃げているのが馬鹿らしく思えるほど、傷を負った私を追う男たちはニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべてちんたらと歩いてくる。


「流石の"紅夜叉"もお手上げかぁ?」


次から次へと湧いて出てきやがって…。
怪我さえしていなければ、こんな奴らどうってことないのに。
痛む腹を押さえれば血は止まるどころか溢れ出してくる。


「そろそろ向こうも終わっただろうな」

「ッ…て、めえ!あいつはどこだ」


低く唸るように言うと男は少し怯みながら鼻で笑った。


「あの世だよ、あの世。今から逝かせてやるから心配すんな」


そう言って男共が一斉に斬りかかってくる。


「今から逝くのは、テメーらだ…っ」


一振りで五人を殺し、一歩づつよろけながらも前に進む。
今の一振りで、傷が広がったのか血がボタボタと地面に池を作っていく。
はやくいかないと。
はやく。


「……あいつ、見つけ…ね…と」


ガクンッ

こんなところで寝てる場合じゃないのに。
そんな思いとは裏腹に私は出血大量と疲労で倒れてしまう。
薄れ行く意識の中でただただ紗那の無事
を願う。








「だ、大丈夫ですか?!」


突然響く男の焦った声に、意識が連れ戻される。
あぁ、ちくしょう、寝てしまっていたのか。


「…ぅ、ぐ……」

「だっ大丈夫ですか?!良かった生きてる…!すぐに、すぐに戻ってきますね!!!」


どこの誰だか知らないが、敵ではないにしろここに寝ている場合じゃない。
傷を刺激してしまわないように、ゆっくりと体を動かしていく。


「っ……クソ…」


思い通りに動かない体に嫌気がさす。
何分経ったのかわからない。
やっとの思いで立ったのに、後ろから2人の気配が近づいてきていた。
さっきの男が戻ってきたのか、敵がきたのか。


「おい?!」


慌てる声に、敵ではないことを知る。
なら相手にする必要がない。
私はあいつを探さないといけないのだから。


「てめえ…っ!んな怪我でなにして…」


ふらつく肩を掴まれて顔を覗き込まれる。
声が出ない代わりに離せと睨みつけるがその手が離れることはない。
むしろ掴む手の力が強くなり振りほどけそうにない。
邪魔するな、行かせろ。


「行か……な、いと……紗那が危な―――」


振りほどこうと力んだのが駄目だったらしい。
ぐらりと視界が揺れて体から力が抜けていく。
何度寝れば私の体は言うことを聞くんだ。
意識を失う直前、銀の髪の男が舌打ちをしたのが聞こえた。





 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ