novel♯

□半分こ
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懐かしい夢を見た。

赤髪の元気な少年の夢。







前回の大乱闘で、
いつもいつも僕の隣で、
せわしなく表情を変える。

たまの休みには読書に
のめりこみたい僕には、
うるさくって仕方がない。

無視するとすねる。
だから、いつも最後には
一緒になってその時を過ごす。










でも

ロイは、もういない。

















半分こ


















「マルス…?」



起きてもなかなかその場から
動こうとしないマルスに、
同室のアイクは思わず声をかけた。



「あぁ…おはよう、アイク。」







そう言ってゆっくりと布団をはがし、
窓際に行って空を見上げた。

時おり、マルスは何かを想って、
空を見上げる。

毎日同じ部屋で過ごすため、
アイクはいつもの彼とは雰囲気が
なにかが違うと勘付いた。

だが、聞いて答えるような
性格でないことも承知していた。






「俺に…できることはないか?」




「え…?」




自分でも驚いた。
アイクは普段他人に干渉はしない。
関心を持つことも珍しい。

そんな自分が、他者を気にかけ、
ましてや手助けしたいだなんて。






「話すのは嫌だろうから、
 できることがあればする。」



「ふふっ…普段空気読めないのに、
 時々鋭いよね。」





「じゃあ、さ…
 少し抱きしめてもいい?」



そう言ってマルスは、
優しくアイクの背中に手をまわした。



心臓が高鳴る。




「こういうこと、
 あまり他でするなよ。」



聞こえないぐらい小さな声で
ぼそっとつぶやいた。
















「懐かしい人の夢を見て…さ。」



そう言って顔を胸にうずめて、
昔話をしはじめた。





初めてこの世界に来て、
誰もが敵に思えた頃。


食事の席でも全員が
互いを探り合うような…

会話もどこかぎこちない。





「あれ…パンが一つ足りない…」


今日の食事は、
カレーのような煮込み料理に、
サラダにパンという
シンプルなものだった。

パンは一人2つ。


(まぁ、いっか…)


もともと少食なマルスは、
特に気に留めることなく
食事を進めていた。



「おい。」


ぶっきらぼうに話しかけてきたのは、
おそらく自分と似た世界から来た
ロイという少年だった。



「そうやっていつまでも遠慮してると、
 いつか自分の首をしめるぞ。」



ナイフが突き刺さったような
感覚がした。

ほぼ初対面に近い少年に、
自分の性質から何から、
全て見透かされた気がした。




「ほら。」


その少年は、自分のパンを
半分にちぎって前に出してきた。



「え…悪いし、いいよ?」


「いいから!!!」


強引にマルスの皿に
半分にちぎった不格好なパンを
ポンと乗せた。





「ぁ、ありがとう…」




不格好なそのパンは、
自分の手をつけていない
まっさらなパンよりも、

どこか愛おしく思えた。







その一件以来、
彼とは親しくなった。

気付けば自分の隣には
ロイがいて。

まるであのパンのように
自分のあらゆる全てを
「半分こ」している心地だった。



ロイが言っていた。

「いつもマルスのことを見てたんだ。
 だから、マルスよりもマルスのこと、
 わかっている。」


彼の言葉は、
くすぐったいけど、
どこか安心した。










いなくなった人のこと、
思い出すとやっぱり辛い…


一緒にいた時間が
大切だったら、余計に。










そう言ってマルスは
アイクの背中に回した手を
無意識にぎゅっと握った。










「……。」



アイクはだまって聞いていた。




「ありがとう…
 なにも言わなくていいよ。」



ふと顔をあげて、
困ったように笑った。



その瞬間。




アイクが凄い力をこめて
マルスを抱きしめた。




「アイクッ…!?」





「そいつが今もお前の半分を占めるなら、
 もう半分を俺に譲ってくれないか?」




「…アイ、ク?」



「忘れろなんて言わない。
 だけど、これから刻む時が
 あることを忘れるな。」







「…アイク…、ありがとう…。」















半分こが大好きだったロイ。



この半分こは、


さすがに怒るかな?






それとも、


許してくれるかな?














**********

ロイマル←アイク
自分より早く出会っている
ロイを妬んでしまう団長!
ロイが絡むと切なくなる…

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