novel♯

□英雄
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「マルスって王子サマなんだよね。」











英雄










「なんだよ、突然…」


大乱闘で連戦続きだったマルスとリンクは、
久しぶりの休暇を自室で過ごしていた。


「いやー、紅茶とケーキが似合うのなんの。」

目の前にあるティーカップを慣れた手つきで
持ち上げた瞬間。時間は午後三時を過ぎた。






「言ってる意味がわかんないよ、リンク。」




呆れたように笑う。

整った高貴な顔をする目の前の彼は、
どんな表情をしても絵画のよう。


テーブルには紅茶とケーキ。
片手には読みかけの薄めの本。
窓から吹き付ける心地よい風に
王子の髪はさらりと踊る。




「絵本の中の1ページを切り取ったみたい…」







その一言にマルスは読んでいた本を
パタンと閉じた。

まるで、リンクの言葉を遮るように。








「確かに僕は王子サマだよ。

 でも、絵本に出てくるような王子じゃない。」




その瞳には自らを蔑み憎み嫌うような
苦しみに満ちた色をしていた。



「祖国のために…そして平和のために…
 なんて正当化してるけど、
 言ってしまえば僕は殺人者。

 戦争の英雄だなんて、
 ただの人殺し集団のリーダー。

 戦争は正当化できるから怖い。
 スター・ロードだなんて笑っちゃうよ…
 僕はたくさんの命を救えずにいたのに。」



マルスが語るは、
彼の世界で暗黒戦争と呼ばれる
おそろしい歴史。
彼の世界で英雄戦争と呼ばれる
世界の覇権をかけた争い。




「こんな僕は王子サマだからと言って
 ちやほやされる資格はないし、
 僕も……嫌だ。」





彼の瞳が哀しさに満ちた色に変わる。


今まで誰にも話したことのない
自分の不安と苦しみを
つい勢いで離してしまったマルスは、
リンクの言葉を待っていた。


(馬鹿だなぁ…なんでこんなことリンクに…)









「戦争じゃ英雄。
 戦争じゃなきゃ殺人者…ね。」




マルスが述べてきたことを
整理するかのように言葉をこぼした。





「でも、誰かがやらなきゃいけないことだったんだろ?
 その戦争で失ったものはたくさんあるけど、
 でもその結果得られるもの、守られたものも
 たくさんあったんじゃないかな?

 人々の中に絶対的な英雄の存在は必要だ。
 マルスは選ばれただけだよ。」




「えら、ばれた?」



王子は呆気にとられたような顔で
リンクの次の言葉を促す。




「そ!
 英雄なんて、誰でもいいんだよ。
 でも誰でもいいけど、必要なんだ。

 光と影は表裏一体。
 人々をおびやかす影が大きければ大きいほど、
 人々を包む光は大きくなければならない。

 その光こそが英雄。
 人は光がないと生きていけないだろ?」






「…ふふっ…」



「な、笑うなよ!!」



思わずこぼしてしまった笑みに、
リンクは恥ずかしそうに声を荒げた。



「ご、ごめんごめん…
 なんか自分が馬鹿らしくなった…


 リンク、ありがとう。」






「ありがとう」の言葉と
同時に向けられた美しい笑顔に
リンクは思わず頬を赤らめた。






「いや…べつに…


 それに、俺だって勇者って言われるの
 そこまで好きじゃないからさ、
 なんか気持ちわかるような気がして。」



「へぇー意外だね。」



「意外って…
 俺ってどんだけ自分大好き人間に見えんだよ。」



マルスから見た自分は
勇者と呼ばれるのが好きだと
思われていた事実に少し肩を落とす。



「勇者は…魔王を倒したから得た称号だと
 俺は思っている。

 人々の中に英雄が必要だ。
 自分が英雄にふさわしくあるためなら、
 勇者を演じるのも使命の一つだと思う。」









「リンクは、大人だね。
 僕はちょっと子どもじみた考えだったなぁ。」




「ま、俺は“先輩”だからな。
 マルスのが子どもなのは当たり前だろ?」




少し意地悪くほほ笑むと、
案の定不機嫌な視線を浴びせられた。


これ以上からかうのはまずいと思い、
仕切り直すように、リンクは語り始めた。






「英雄の存在はどんな世界でも必要だ。
 でも、時には自分の意思とは反して
 英雄に選ばれる場合もあるだろう。

 だが、選ばれた自分の宿命そのものに
 反することは、誰かの光を奪うことになる。
 英雄っていう光を。


 選ばれし者の責任ってやつかな?
 ま、もっとも、責任負うことのできるやつしか
 選ばれないだろうよ。」






「そうだね…
 王子として生まれた僕にできること…

 選ばれた者にしかできないことだよね。」





「だから、自信持てよ。王子サマ」



「そうするよ。勇者サマ」














本当は

君だけの英雄でいたい

だなんて言ったら



どんな顔するのだろう

















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リンマル!
王子と勇者は、よき仲間であることが
大前提で、リンクが片思いだといいな。笑

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