novel♯

□仮面
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「よく来ましたね」




雷がうなる深い樹林の中。




「お会いできて光栄です…アリティアの王子。」












仮面














あの日、僕はなぜあそこに行ったのだろう。









暗黒戦争も終盤に差し掛かり、
アリティア軍はグルニア王国の国境まで辿り着いた。


しかし、軍は度重なる戦闘で疲弊して、
また次なる敵はあの「ブラックナイツ」ということもあり、
アリティア軍はしばし休息をとった。






「あれ、これなんだろう?」

作戦室で一人で休息をとっていた王子は、
ふと机の上にある地図のそばに一通の手紙を見つけた。




「『親愛なる王子』…ってことは僕宛かな?」






 ――― 親愛なる王子

  わたしはあなたの嘘を知っている

  あなたに会いたい

  今宵ここで待つ






「なにこれ…」


手紙とともに地図が同封されていた。



グルニア王国の国境ぎりぎりの森林。
自軍が休息をとっている場所からすぐだ。




「誰が行くかなぁー、こんな罠みたいなお誘い」








「…嘘、か…」









雲の色が変わった。
















「よく来ましたね」


「僕も来るとは思いませんでした」




雷がうなる深い樹林の中。



「お会いできて光栄です…アリティアの王子。」


「それはご丁寧に…ブラックナイツ・カミュ。」




しばし二人の間に沈黙が訪れる。


先に沈黙を破ったのは、王子の方だった。


「要件は何でしょう?」


「…そうですね。『嘘』は分かりましたか?」



「分からないですね。
 ただ、あなたに嘘をついた覚えはない」



「…確かに私に嘘はついてない。
 あなたが嘘をついているのは、あなた自身にだ。」






「…?僕が僕に嘘を…?」




「私はあなたの戦いを知っています。
 これまでの戦績、すべて。

 戦いはその軍の指導者を映し出します。
 あなたは、嘘をついている。」



「言っている意味が分からないのですが…」



「あなたは戦いを好まない。
 でも、あなたは憎しみを抱いている。

 憎しみの相手ですら、殺したくないのでしょう?」


「…!」




「殺したい相手は殺せず、
 殺したくない相手を殺さなければならない。

 あなたは仮面を被った王子だ。」



「あなたに何が分かる…!!」




雷が轟いた。






「私は知っています。
 あなたが自軍の兵士に暴行を受けたことを。」


「!!!」



「先日、あなたの軍が休息中だということで、
 私は国境付近に偵察に行かせました。

 すると、私の部下がとある兵士の会話を聞いたのです。
 『我らが王子は、淫乱だ』と。」


「………」



「軍ではよくあることです。
 常に生と死の緊張感に挟まれているのですから…
 ストレスや欲求は仕方ないことでしょう。

 しかし、一国の王子が…」


「煩い!!」




王子の一声で、あたりは静まり返った。
雷ですら、この瞬間は無言になった。




「事実は否定しない。
 でも、あなたにとやかく言われる筋合いはない。」



「そうですね。
 でも、その兵になぜ処罰を与えない?
 これは死刑に値する、王国に対する侮辱だ。」


「今、士気をつぶすわけにはいかない。
 誰だって、好きでこんな戦いに参加していない…
 あの時、僕は気づいたんだ。


 『誰のために戦ってると思ってるんだよ』って言われて。」



「……それで?」



「そうだよ、みんな僕のためだ。
 僕のために命を捧げている…」



「殺したくはありませんか?」


「たしかに殺したいって気持ちはある。
 でも、それこそあいつの思うつぼだ。

 あの兵士は、山賊上がりだから。」


「ほう…あなたは山賊上がりも軍に入れるのですか。」




「どこ出身とか関係ないよ。
 ドルーアの圧政と暴挙を許さない気持ちがあれば。」




「…ふふ…おかしな人だ。」




「なにが…ですか?」




「その山賊上がりの兵士は、私の差し金だとしたら?」


「…!!」




「私は試したのです。
 あなたは彼を殺すかどうかを。」




「最初から殺す駒として、仲間を送り込んだのか!」



「仲間?とんでもない。
 彼はただ金を欲する山賊だ。」






雷が再びあたりを支配する。




「あなたは…最低だ。」



「そうです。最低です。
 だからこそ、決戦の日は迷ってはいけない。


 私は殺すべき敵。憎むべき敵。
 殺すべき相手を殺しなさい。」







アリティアの王子は若く、甘い。

指導力は優れている。
それは数々の戦績を見れば一目瞭然だ。


私との戦いも、
決して命を奪い合うことは望まないだろう。


おそらく、私に戦いをやめ、助力を願うはずだ。



ただ、これからの戦いは、
その甘さが命とりになる。



甘さを捨てろ。
仮面を捨てろ。


そして、ドルーア王国を倒せ。



私がドルーア王国を倒せない代わりに、
私があなたの甘さを消し去ろう。


必ず、倒せ。








決戦の日。

ブラックナイツ・カミュはアリティア軍を前に敗れた。















その数年後、英雄戦争の戦いにて、

王子が出会った騎士は仮面を被っていた。
















**********

カミュマル!
意味不明です!
グルニア決戦前に二人は出会ってると思う!


暗黒龍の続編である紋章の謎では
カミュ将軍が仮面被って、名前を偽って、
一緒に戦ってくれるのです!

シリウス×マルス…「尻丸」っていやだ。笑

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