短編
□死んでたまるかと
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???×チキン
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彼はある満月の夜、僕の目の前に現れた。
オールバックにされた、美しい金色の髪が眩しい。透き通るような白い肌は青白いと言った方が正しいかもしれない。
「やあ」
しっかりと戸締りをしていたはずの僕の部屋の窓辺に腰掛け、彼は人間の血は久しぶりだ、なんて言いながらにんまりと笑った。と、同時に見えた白く尖った犬歯。常人離れしたそれに理解した時、あっけに取られたまま動かなかった頭が機能し始めた。
「ぽ」
「ぽ?」
少しずつ僕に歩みより、息が首筋にかかるところまで来ていた彼が一時的に止まった。
「ポマード!ポマード!ポマード!」
「おしいけど全然違う!私、口裂けてないから!吸血鬼だから!」
彼は何か言っているが、正直、怖すぎて僕にはなにも聞こえない。
「ポマード!」
彼はいくら言っても消えない。
怖い。僕は無我夢中で手を振り回した。
「わ!ミゾオチ地味に痛いから!」
僕が乱暴に振り回す手が彼にあたろうとも、彼は一向に姿を消さない。
「ポマードォッ!」
「あれ、君、泣いてる?」
一瞬、彼の心配そうな顔が見えた。
何だって言うんだ。
僕は一層大きな声で叫んだ。
「ポマアアアドオオオ!!」
こんなところで死んでたまるか。