密かな誇り

□第五章〜奇蹟
2ページ/29ページ




俺は、真ん中の列の後ろから二番目の席に座った。

高三の、ほぼ年間通して俺の席だった場所だ。

よほどの不都合がない限り、席替えしよう、と言い出すヤツもいなかったから。

俺はこの席を気に入っていた。智哉の様子を難なく視界に入れることができたし。


智哉は大抵ひとりで行動を起こした。

教室移動、昼食を買いに出る、その他もろもろ。

俺から近づいていかなければ、全て別行動になってしまうんじゃないかと思うくらいに。


そして誰が話しかけても同じ態度をとり、人を傷つけるということがない。

俺は彼のそういう部分が好きでもあり、もどかしい部分でもあった。

少しでも春海は特別≠チてのを垣間見せて欲しかった。



だから――嬉しかったよ。


愛用のミットを「春海になら、どんな扱いされてもいいって思ったんだ」って言ってくれたとき。

俺がわざと「大学もお前と一緒か〜」って嘆いたら、「なんだ、嫌なのか?」って少し怒ったように返してきたとき。

それから……

それから……






「!」

開けっぱなしの教室の引き戸の向こう。

廊下を歩いてくる人の姿が見えた。

角度的に俺の席はまる見えになり、バッチリと目が合う。

俺は慌てて席を立ち、ガタガタと大きな音を立ててしまった。







「……やっぱり、ここにいた!」


智哉が、屈託のない笑顔でそう言って教室に入ってくる。




_
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ