密かな誇り
□第五章〜奇蹟
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俺は、真ん中の列の後ろから二番目の席に座った。
高三の、ほぼ年間通して俺の席だった場所だ。
よほどの不都合がない限り、席替えしよう、と言い出すヤツもいなかったから。
俺はこの席を気に入っていた。智哉の様子を難なく視界に入れることができたし。
智哉は大抵ひとりで行動を起こした。
教室移動、昼食を買いに出る、その他もろもろ。
俺から近づいていかなければ、全て別行動になってしまうんじゃないかと思うくらいに。
そして誰が話しかけても同じ態度をとり、人を傷つけるということがない。
俺は彼のそういう部分が好きでもあり、もどかしい部分でもあった。
少しでも春海は特別≠チてのを垣間見せて欲しかった。
だから――嬉しかったよ。
愛用のミットを「春海になら、どんな扱いされてもいいって思ったんだ」って言ってくれたとき。
俺がわざと「大学もお前と一緒か〜」って嘆いたら、「なんだ、嫌なのか?」って少し怒ったように返してきたとき。
それから……
それから……
「!」
開けっぱなしの教室の引き戸の向こう。
廊下を歩いてくる人の姿が見えた。
角度的に俺の席はまる見えになり、バッチリと目が合う。
俺は慌てて席を立ち、ガタガタと大きな音を立ててしまった。
「……やっぱり、ここにいた!」
智哉が、屈託のない笑顔でそう言って教室に入ってくる。
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