密かな誇り
□第四章〜幸福
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俺は智哉の部屋へ行き、いつものテーブルの脇に座って、ダブルデートの件を報告した。
智哉は台所でコーヒーを淹れてくれている。
「西口にアタックチャンスを与えてやりたいんだよ!」
「そうか」
とても穏やかな、あっさりとした返事だ。
その背中に向かって、俺は話を続けた。
「き、きっとさ。ボブのコも、あいつらの仲をとりもつためにダブルデートの話に乗ったんだよっ」
ちょっとくらい嫉妬させたい気持ちもあるのだが、俺はあいかわらずのビビリだ。
つい智哉を安心させなきゃ、と思ってしまう。
「それは無理があるんじゃない?」
智哉はコーヒーの入ったマグカップを俺の前に置きながら言った。
心臓が軋(きし)みを訴え、俺はカップから立ちのぼる湯気を見つめたまま固まる。
「純粋に春海のことを気に入ってるんだと思うよ」
智哉はそう言って微笑み、自分のカップに口をつけた。
「だとしたら……ヤベぇじゃん」
「なにが?」
なにがって……
あ、まただ。
ざわざわ
ざわざわ
「俺の方は一回こっきりって決めてんの! なのに困る……」
「困る必要ないじゃん。春海から見ても感じのいいコだったんだろ? 運命の出会いかもよ」
ざわざわ
ざわざわ
「何言って……、俺にはお前が」
「それにやっぱり合わないなって思ったら、すぐまた俺のとこに戻ってくればいい。俺は春海を寂しがらせるつもりないから」
智哉は顔を上げ、そのときだけは俺の目を見て言った。
なんだよ……それ……。
俺の心臓の音は、うるさいくらいに乱れている。
「春海自身の幸せだけ、考えて欲しいんだよ。これからは」
幸せ……
俺の幸せは、お前とずっと一緒にいることだ。
なんでわかってくんねぇんだよ?
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