密かな誇り

□第三章〜虚構
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二度目の防衛戦まで二ヶ月をきった頃だった。

記事にする上で2、3確認したい事が生じ、高橋ジムに電話を架けた。


『私でわかることなら答えますけど』


会長の奥さんが電話口に出たので、用件を話す。


『あ、それはちょっと他の者でないと……、安西(あんざい)くん』


奥さんは妙に小声で、トレーナーの安西氏を呼んだ。

なぜ小声になる必要があるのだろう?

電話の向こうで、複数の話し声がしている。


『もしもし、安西ですけど。春海くん?』

「あ、お取り込み中ですか? ちょっと確認したいことが……」

『うん、大丈夫。で、なんだい?』


安西氏の回答で、こちらの用件は間に合った。

しかしやはり安西氏も小声で、後ろの会話を気遣っている様子だ。


「あの……何かあったんでしょうか?」


俺はおそるおそる訊いてみた。


『ん、まぁヤボな事だよ。テレビがらみのな』


彼は更に声量を落として答える。

後ろにテレビ関係者がいるのかもしれない。


「と……柚木もそこに居るんですか?」

『いるよ。後で詳細は本人に聞くといい。じゃ、もう切ってもいいかい?』

「あっ、はいっ、ありがとうございました!」


俺は慌てて電話を切り上げた。



通常なら練習している時間帯に、智哉は何に巻き込まれているんだ?

今日中に、本人から話を聞けないだろうか?


俺は時計を見た。夜の7時だ。

まだ入稿まで日がある。

できるだけ仕事をすすめ、俺はその一時間後には退社した。





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