密かな誇り
□第三章〜虚構
2ページ/31ページ
二度目の防衛戦まで二ヶ月をきった頃だった。
記事にする上で2、3確認したい事が生じ、高橋ジムに電話を架けた。
『私でわかることなら答えますけど』
会長の奥さんが電話口に出たので、用件を話す。
『あ、それはちょっと他の者でないと……、安西(あんざい)くん』
奥さんは妙に小声で、トレーナーの安西氏を呼んだ。
なぜ小声になる必要があるのだろう?
電話の向こうで、複数の話し声がしている。
『もしもし、安西ですけど。春海くん?』
「あ、お取り込み中ですか? ちょっと確認したいことが……」
『うん、大丈夫。で、なんだい?』
安西氏の回答で、こちらの用件は間に合った。
しかしやはり安西氏も小声で、後ろの会話を気遣っている様子だ。
「あの……何かあったんでしょうか?」
俺はおそるおそる訊いてみた。
『ん、まぁヤボな事だよ。テレビがらみのな』
彼は更に声量を落として答える。
後ろにテレビ関係者がいるのかもしれない。
「と……柚木もそこに居るんですか?」
『いるよ。後で詳細は本人に聞くといい。じゃ、もう切ってもいいかい?』
「あっ、はいっ、ありがとうございました!」
俺は慌てて電話を切り上げた。
通常なら練習している時間帯に、智哉は何に巻き込まれているんだ?
今日中に、本人から話を聞けないだろうか?
俺は時計を見た。夜の7時だ。
まだ入稿まで日がある。
できるだけ仕事をすすめ、俺はその一時間後には退社した。
_