密かな誇り

□第二章〜残像
2ページ/18ページ



智哉の話し声が背後から聞こえた。


「俺も返したいものがあったんだ」

「何?」


いぶかしげに訊く元カノ。

智哉がカサカサと封筒のようなものを取り出し、彼女に渡した気配。


「な、何コレ懐かしい!」


元カノが可愛らしい声をあげる。

それに交じって、チャラチャラと金属が小さくぶつかり合う音。


「部屋に忘れてったろ? 高そうだから捨てるに捨てられなくて」

「こんなの安物よ。ずっととってあったの? 律儀ぃ〜」

「俺、光り物の価値なんか全然わかんないから」

「柚木くんらしい〜」

「だってこれダイヤだろ?」

「イミテーションよぉ」


そこそこ楽しそうに会話が弾んでいる。


たぶんネックレスか何かだろう。

たしかにらしい≠。
本物のダイヤかと思いつつ、封筒とかに入れて持ってくるトコが。

智哉の探し物≠ニは、それだったのだろうか。




胃がキリキリと痛む。

実は、本心から楽しんでんじゃねぇの?


ガサゴソと紙袋を探るような音とともに、ふたたび智哉の声がした。


「そっちこそ、コレ返してもらう必要なかったものばっかだよ。ゲームだのマンガだの」

「だってぇ……」


もじもじするような元カノの口調がイラつく。

その先の台詞は予想通りだった。


「理由がないと、会ってくれるか不安だったんだモン!」


モン!を高めに発声するところが計算くさい。
智哉はそんなこと気づきもしねぇだろう。


「なんでそんな……。彼氏いるんだろ?」

「今はいないっ」

「イケメンの彼氏できたって聞いたよ」

「いつの話よ?」

「俺と別れて、結構すぐ」

「四年も前じゃない! あれから私、男の人を見る目を養ったんだから。その上で柚木くんに会いたいって思ったんだよ!」


しばし沈黙が流れる。

あいつが女に口で勝てるわけがない。

そもそも最初から勝負するつもりで来ていない。

元カノに丸めこまれて、ヨリ戻しちまうんじゃねぇのか!?



_
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ