密かな誇り
□第二章〜残像
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智哉の話し声が背後から聞こえた。
「俺も返したいものがあったんだ」
「何?」
いぶかしげに訊く元カノ。
智哉がカサカサと封筒のようなものを取り出し、彼女に渡した気配。
「な、何コレ懐かしい!」
元カノが可愛らしい声をあげる。
それに交じって、チャラチャラと金属が小さくぶつかり合う音。
「部屋に忘れてったろ? 高そうだから捨てるに捨てられなくて」
「こんなの安物よ。ずっととってあったの? 律儀ぃ〜」
「俺、光り物の価値なんか全然わかんないから」
「柚木くんらしい〜」
「だってこれダイヤだろ?」
「イミテーションよぉ」
そこそこ楽しそうに会話が弾んでいる。
たぶんネックレスか何かだろう。
たしかにらしい≠。
本物のダイヤかと思いつつ、封筒とかに入れて持ってくるトコが。
智哉の探し物≠ニは、それだったのだろうか。
胃がキリキリと痛む。
実は、本心から楽しんでんじゃねぇの?
ガサゴソと紙袋を探るような音とともに、ふたたび智哉の声がした。
「そっちこそ、コレ返してもらう必要なかったものばっかだよ。ゲームだのマンガだの」
「だってぇ……」
もじもじするような元カノの口調がイラつく。
その先の台詞は予想通りだった。
「理由がないと、会ってくれるか不安だったんだモン!」
モン!を高めに発声するところが計算くさい。
智哉はそんなこと気づきもしねぇだろう。
「なんでそんな……。彼氏いるんだろ?」
「今はいないっ」
「イケメンの彼氏できたって聞いたよ」
「いつの話よ?」
「俺と別れて、結構すぐ」
「四年も前じゃない! あれから私、男の人を見る目を養ったんだから。その上で柚木くんに会いたいって思ったんだよ!」
しばし沈黙が流れる。
あいつが女に口で勝てるわけがない。
そもそも最初から勝負するつもりで来ていない。
元カノに丸めこまれて、ヨリ戻しちまうんじゃねぇのか!?
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