密かな誇り

□第一章〜理由
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元野球部主将・守屋(もりや)の実家が中華料理屋を経営していて、今回はそこを借り切って同窓会が行われる。

俺と智哉が入口をくぐると、既にかなりの人数が集まっていた。


「ぅお〜! 春海、柚木、久しぶり〜!!」

「おぅ! 世界チャンピオン! こないだの初防衛戦、観に行けなくてごめんな!」

「いいよ、都合がつく時で」

「俺こないだ初めて会場で観たぜ! ホントに俺の知ってる柚木かよ!?って目を疑ったね!」


智哉は一週間前に、ボクシングの世界ライト級王座を初防衛したばかりだ。


仲間たちが口々に歓迎の言葉を浴びせ、時には智哉の背中を叩く。

俺はなんだか自分のことのように嬉しくて、その光景を見て顔がほころんだ。



「そういや春海、出版社に勤めてんだよな」


そう声をかけてきたのは、少々悪ガキだった畑中(はたなか)だ。

背の高い彼は椅子に座って俺を見上げていた。

席をひとつずれ、ここ座れ、と俺を自分の隣へ促す。


「でさ、あれだろ配属がボクシング雑誌の……」

「うん、BOX通信」

「そうそれ! 柚木はボクサーだし。偶然にしちゃ出来すぎてねぇ?」

そう尋ねる畑中に悪気はない。屈託のない男なのだ。


「で、でも偶然なんだよ……」


確かに、ボクシング誌に配属されたのは偶然だ。

だが俺が出版社に就職を希望したのは、智哉のいる東京に出たかったからでもある。

そこに後ろめたさを感じて、つい歯切れの悪い返答をしてしまった。


「まぁ信じらんねぇような偶然て起こるもんだよ! 野球とかの試合展開もそうだろ?」

テーブルを隔て、斜め前の椅子に座っていた田所(たどころ)が、助け舟を出してくれた。


田所は、俺と智哉が高校卒業後、四年間も音信不通だったことを知っている唯一の友人だ。


当時、智哉が連絡をくれないことを自分の胸だけにしまっておくのが苦しすぎて、俺は田所に打ち明けた。

誰にも言わないで、聞いて欲しいだけだから、と前置きして。


それでも話した直後、友情に厚い田所は憤慨していたが、俺の意志を尊重して静観を決め込んでくれた。

彼にはどう感謝しても足りない。





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