連れて帰ろう

□連れて帰ろう
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「柚木お前、春海と仲いいの?」


部活が始まって二週間も経った頃か、同じ新入部員の田所(たどころ)が尋ねてきた。

彼とは帰り道が一緒だった。


春海というのは、子ダヌキくんの名字だ。

俺は首をかしげ、しばし考えを巡らせる。


部活でキャッチボールの段階になると、必ず春海から「おぅ、やるぞ」と俺を誘う。

だから組んでいる。

それだけ……のような気がした。


「仲良くはない……かな」


語弊があるかもしれないけど、そう答える。


「そうかぁ!? アイコンタクトばっちしじゃん、お前ら」

「え? どういう時?」

「だからキャッチボールの時とかだよぉ!」


してたっけ? アイコンタクトなんて。


「それまで俺や守屋とかと喋ってても、春海は柚木とやるんだぜ?」


やるんだぜ?ってなんか下品だね。

なんて思う俺が変なのか。


なんかドキドキしている。

しょうがない、そういう言葉に敏感なお年頃だから。

男子校だし、女子がいないし、たまたま春海の名前がくっついてきただけ。


「おい柚木。お前、顔赤くなってるぞ……ひょっとしてぇ!」

田所が嬉々として冷やかし口調になり、俺は焦った。


「違うよ! えぇっと、なんだろ、相性が、じゃなくて、波長が……そう! なんとなく波長が合うんだよ!」

「へええ〜……」


田所は俺の顔を覗きこむ。

あぁ、赤面症って困るな。


「お前の焦った顔は貴重だ。わかった! そういう事にしといてやる」

「そういう事って……」


「柚木と春海が超〜仲良くなっても、ただの友人て事にしといてやる!」

「な……なんだよソレ」



だいたいさ、俺は誰かと超〜仲良くなんてならないよ。

そこそこの友人にしかならないよ。


実は、人と深く付き合うのって苦手だから……。



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