キリリク&記念小説

□希望(サイト3周年記念SS)
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「な……んだ。柚木も気分悪くなったのか? めずらしい」

「ほんとはピンピンしてるけど……キャプテンにことわって、来ちゃった」


仮病か。

柚木(こいつ)普段は真面目だから、疑われねぇんだろうな。

俺は仰向けになったまま、ダグアウトの天井にぶつけるがごとく嫌味を吐き出した。


「お前は、いいよなっ。ランニングも一番速くゴールするしっ。根性あるって先輩にいっつも褒められてよっ!」

「春海……」


八つ当たりだ。

柚木が優しいからって当たってる。

つくづく俺ってヤなヤツだ。


「今夜、遊びに行かない? ふたりで」


柚木に誘われ、思わず飛び起きた。

額から冷たいタオルが落ちてしまう。


「普段は、みんなと一緒の方が楽しいだろうけど……」


柚木は目を逸らし、頭を掻きながらそんなセリフを付け加えた。

――なんだよ。それ。


「なんで親友とふたりで遊ぶ方が、楽しくねぇってことになるわけ!? 馬鹿じゃん!」


俺はこの時、初めて柚木のことを親友′トばわりした。

出逢って五ヶ月にも満たないチームメートのことを……


「ば……馬鹿って! じゃあ春海は意地っぱり! 腹黒!」

「あ、どさくさに紛れて二個も悪口放り込みやがった!」

「うるさい! 大人しく寝てろ!」


柚木は俺の頭を掴んでベンチに押さえつけようとしたが、手加減してるのはモロバレだ。

俺が抗わずにゴロンと寝転がると、あっ、と焦り気味の声が頭上で上がった。

それが可笑しくて、たまらず背中を丸める。


「クククッ……お前の腕力くらいで俺がひっくり返るか。馬鹿が」

「わ、わかってるよっ。こっちこそガチで押さえつけるわけないしっ。弱い者いじめになっちゃう」

「よわ……」

「あ……」

「そうだよな……少なくとも俺は強そうじゃねぇよな。同じ男から見て」


あぁ、また愚痴に発展しちまった。

こんな面倒な野郎を親友≠セなんて。

いくら人の好い柚木でも、本心からは認めちゃくれねぇだろう……


「で、今日の部活終わったら、そのまま遊べるの? それとも一回、家に戻る?」


柚木は何事もなかったかのように遊びの予定について話を進めた。

――言っとくけど俺、遊ぶか遊ばないかさえ、まだ返事してませんが?――


「…………そのまま遊べる」


俺は背中を丸めて寝転がったまま答えた。







学校を出てからバスと電車を乗り継いで、初めてN駅で降りた。

紫色のロープウェイが山頂へ上って行くのが、駅のホームから見える。


「近(ちっけ)ぇー。何あれ! N駅直結?」

「あ、麓の駅まで少し歩くよ。五分くらいだけど」

「乗ったことあんの? ねぇ?」

「まだない」

「そのうちデートに使おうと思ってたんだろ」

「……あー、それいいね。じゃあ今回は下見を兼ねてってことで」

「ケッ。近いうちに本番があるといいですねぇ?」

「お互いにねぇ?」


あンだよ、と俺らは肩でどつき合いながら、N駅の改札口を出た。


週末だったせいか、夜だというのに、上りのロープウェイは混み合っている。

妙に心が躍った。

高校生が浮かれるほどのシチュエーションでもないだろ、と頭では分かっていても。


「ひゃーっ、なんかこえぇな! 下、真っ暗でこえぇな! な! 柚木!」


ロープウェイに揺られ、窓の外を見下ろしながら、俺は柚木のブレザーの襟を引っ張ってはしゃいだ。


やべっ……

軽蔑される……?


恐る恐る柚木の表情を確認する。

彼は微塵も嫌な顔を見せず、それどころか優しい笑みを俺に向けた。



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