聖域は語る
□第三章
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智哉は少しためらいがちに再び手をのばしてくる。
俺は口を引き結び、彼の指先が唇に触れるのを黙って耐えた。
鼓動が高鳴り、嫌ではないのに何故か逃げ出したくてたまらない。
「俺の……なのに……」
智哉はそうつぶやくと、俺の首根っこを押さえ、ぶつかるように唇を重ねた。
貪られ、息苦しい。
怖いのに、その怖さを与えてくる相手にしがみつくしかない。
心臓が悲鳴をあげるほど激しく鼓動を刻む。
愛しい彼が俺に嫉妬してる。
いまは俺のことだけ考えてる。
嬉しいことのはずだった。
でも、そう仕向けたのは皮肉にも……
俺は負けん気を奮い立たせた。
ざまぁみろ。楢山。
智哉は俺のものだ。
お前がどうそそのかそうと智哉は最高のケンカ≠ネんかしない。
俺がさせない。
絶対にさせない。
「っ智哉……」
俺は奪い合うような濃厚なキスを中断させ、彼の目を見つめて告げた。
「お前だけだって、いつも言ってるだろ。お前じゃなきゃやだよ」
「……」
智哉は黙って青白い光を宿す目で俺を見つめ返す。
そこにはもう、何もなくなったと泣いてうつむく彼はいない。
……なんでだよ。
智哉、お前を立ち直らせたのはあいつかよ。
俺はあいつに及ばないのか。
なんだかんだいって、お前は俺と色々あっても試合には勝ってきたし。
『負けたのは俺だ。誰のせいにもできないんだ!!』
お前が言ったように、楢山のせいではなく色んな事由が重なっての敗北だったとしても。
悔しいし、怖い。
お前の中で、あいつの存在は決して小さくない。
だから怖いんだ――――
「智哉、好き……」
俺は自分から唇を重ねては、好き、と繰り返した。
「じゃあ、カラダでも……確かめさせろよ」
冷たい色を声に滲ませて、智哉は俺の胸元に噛みついた。
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