聖域は語る

□第一章
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「今すぐになんて、焦ることないか……。こんなに傍にいるんだから、俺たち」


智哉の穏やかなつぶやき。

俺は彼の背中に腕をまわして答えた。


「うん……ゆっくり考えよう。もちろん前向きなことも。どんな部屋に住もうか、とかさ」


今すぐでなくとも、いつか必ず一緒に暮らす。

それは決まってることだ。


智哉は「うん」と嬉しそうに相槌を打ち、収まりのいい位置を求めて俺を抱えなおした。


心臓の激しい動きが、合わさる胸をとおして伝わりそうだ。


……ま、いっか。

あんまり口で言えねぇ分、鼓動が伝えてくれるといい。

「好きだよ」って。






智哉は上を向いて、再び口を開いた。

「夢が広がるなぁ。まずは俺の部屋に、今より大きいベッドを置く」

「な、なんで?」

「またまたぁ。基本、夜は俺の部屋で寝てよ? ……千景」


耳元でささやかれ、体の芯が甘く疼く。

しかし俺の口は、甘さとは無縁の未来像を紡ぐに留まる。


「……仕事の都合で書斎にこもる日も多いかも。俺の部屋は書斎を兼ねるんだ」


すると智哉はクスッと笑い、つれないなぁ、とつぶやいた。

そのあと何かに気づいたように、そういえば……と言葉を続ける。


「夫婦だったら寝室を同じにして、ダブルベッド置いても堂々としてられるのに……。いろいろ考えること多いよね」

「うん……」



そうなんだよ。

俺たちは夫婦にはなれない。

親友同士で同居してる≠チて体(てい)を装わなきゃいけない。




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