聖域は語る
□第一章
3ページ/20ページ
「今すぐになんて、焦ることないか……。こんなに傍にいるんだから、俺たち」
智哉の穏やかなつぶやき。
俺は彼の背中に腕をまわして答えた。
「うん……ゆっくり考えよう。もちろん前向きなことも。どんな部屋に住もうか、とかさ」
今すぐでなくとも、いつか必ず一緒に暮らす。
それは決まってることだ。
智哉は「うん」と嬉しそうに相槌を打ち、収まりのいい位置を求めて俺を抱えなおした。
心臓の激しい動きが、合わさる胸をとおして伝わりそうだ。
……ま、いっか。
あんまり口で言えねぇ分、鼓動が伝えてくれるといい。
「好きだよ」って。
智哉は上を向いて、再び口を開いた。
「夢が広がるなぁ。まずは俺の部屋に、今より大きいベッドを置く」
「な、なんで?」
「またまたぁ。基本、夜は俺の部屋で寝てよ? ……千景」
耳元でささやかれ、体の芯が甘く疼く。
しかし俺の口は、甘さとは無縁の未来像を紡ぐに留まる。
「……仕事の都合で書斎にこもる日も多いかも。俺の部屋は書斎を兼ねるんだ」
すると智哉はクスッと笑い、つれないなぁ、とつぶやいた。
そのあと何かに気づいたように、そういえば……と言葉を続ける。
「夫婦だったら寝室を同じにして、ダブルベッド置いても堂々としてられるのに……。いろいろ考えること多いよね」
「うん……」
そうなんだよ。
俺たちは夫婦にはなれない。
親友同士で同居してる≠チて体(てい)を装わなきゃいけない。
_