聖域は語る

□第一章
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「知ってるよな」

「な、なにを?」

「俺は、お前が世界チャンプでい続けること、切望してるわけじゃねぇ」


俺の発言を受け、智哉は一瞬目をむいた。

そして斜め下に目線を移し、考え込むように固まる。


この際、本音を言っておくべきだ。

俺は智哉の顔を覗き込むようにして話を続ける。


「できれば、お前をリングに上がらせたくねぇって思ってる人間だよ。そういうヤツが一緒に暮らしたりして、お前の邪魔しねぇ保証がどこにある?」


すると智哉は、確信と悲痛の混ざった表情で反論した。

「邪魔なんかするわけない! 自己評価が低すぎるんだよ千景は!」

「智哉……」

「俺がベルト獲ったら喜んでくれたじゃん。勝つたびにおめでとうって言ってくれた。あれ全部ウソ?」

眉をひそめ、目を潤ませて尋ねる彼。

俺は慌てて首を左右に振り、弁解した。

「ウソじゃねぇよ。嬉しかったよ!」

「でも今、リングに上がらせたくないって」

「俺はお前の身内だからっ。お前のお母さんだって、いまだに試合、観てくれたことねぇだろ?」


すると智哉は、俺の目を凝視して再び押し黙る。

彼の痛いところを突いてしまった。

罪悪感にかられてうつむきつつ、俺は最後まで正直な気持ちを伝える。

「仕方ねぇんだよ。心配が先にきちまうのは……」







「そう……そうだよな。うん。ごめん」

智哉に謝られ、俺は顔を上げて身を乗り出して言った。

「い、一緒にいてぇのはやまやまなんだよ。もっといっぱい……」

訴え終わらないうちに、智哉は俺の体を力いっぱい抱きしめてきた。


心臓、止まりそうだ。




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