聖域は語る
□第一章
2ページ/20ページ
「知ってるよな」
「な、なにを?」
「俺は、お前が世界チャンプでい続けること、切望してるわけじゃねぇ」
俺の発言を受け、智哉は一瞬目をむいた。
そして斜め下に目線を移し、考え込むように固まる。
この際、本音を言っておくべきだ。
俺は智哉の顔を覗き込むようにして話を続ける。
「できれば、お前をリングに上がらせたくねぇって思ってる人間だよ。そういうヤツが一緒に暮らしたりして、お前の邪魔しねぇ保証がどこにある?」
すると智哉は、確信と悲痛の混ざった表情で反論した。
「邪魔なんかするわけない! 自己評価が低すぎるんだよ千景は!」
「智哉……」
「俺がベルト獲ったら喜んでくれたじゃん。勝つたびにおめでとうって言ってくれた。あれ全部ウソ?」
眉をひそめ、目を潤ませて尋ねる彼。
俺は慌てて首を左右に振り、弁解した。
「ウソじゃねぇよ。嬉しかったよ!」
「でも今、リングに上がらせたくないって」
「俺はお前の身内だからっ。お前のお母さんだって、いまだに試合、観てくれたことねぇだろ?」
すると智哉は、俺の目を凝視して再び押し黙る。
彼の痛いところを突いてしまった。
罪悪感にかられてうつむきつつ、俺は最後まで正直な気持ちを伝える。
「仕方ねぇんだよ。心配が先にきちまうのは……」
「そう……そうだよな。うん。ごめん」
智哉に謝られ、俺は顔を上げて身を乗り出して言った。
「い、一緒にいてぇのはやまやまなんだよ。もっといっぱい……」
訴え終わらないうちに、智哉は俺の体を力いっぱい抱きしめてきた。
心臓、止まりそうだ。
_