そばにいられるだけでいいのに


□第三章〜事件
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「ん……」


長いキスに、思わず声が漏れた。


人気のない、岩陰になる場所に誘い込まれ、唇を何度も重ねる。

ここを穴場だと知っているカップルでも来るんじゃないかと内心ヒヤヒヤして、人の気配があれば察知しようと構えていた。

今のところ、誰も来る様子はない。


「……やっぱり今日、どっか泊まろうか?」


柚木が、またすぐキスを再開できるくらい顔を近づけたまま俺に尋ねた。


「明日仕事だし、日帰りって決めただろ……」


強くは却下できない。

俺も離れがたいのはやまやまだからだ。


「じゃあ休むだけ。K駅まで戻れば、遅い時間でも終電あるだろ?」


柚木の提案に、俺はしばらく間を取って、結局うなずく。


「決まり!」


そう言って嬉しそうに微笑む柚木の肩に、俺は頭をもたれ掛けた。


心臓がトクン、トクンと脈打つ。

静かな波の音が聴こえる。

午後の日差しで、海面がキラキラ光っている。


今なら俺……死んでもいい。


「……幸せすぎて、今ここで終わってもいい。俺の人生」

「大げさだなぁ」


柚木は柔らかく笑い、俺の肩に回していた方の手で髪を撫でてくれる。


俺は柚木に近い方の腕を彼の背に回して、そっと目を閉じた。








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