密かな誇り
□第四章〜幸福
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「ダブルデート!?」
俺は自室で電話中に、突拍子もない声を上げた。
電話の相手は、先日畑中の披露宴にも出席していた男だ。
名前は西口(にしぐち)。
同じ高校の野球部出身。クラスも高二から卒業するまで同じだった。
男子校で、女子との接触の少なさを嘆きあい、かといって女、女とがっつくのも実は苦手だという点で俺と気が合った。
『こないだの披露宴の二次会でさぁ、意気投合した女の子がいるんだけど、こんど東京で遊ぼうってことになったのよ』
「へ……へぇ。で、俺を案内役にしたいと」
『おーう、いい勘してんね……じゃなくて! ちょっとちがうんだよ理由が』
「理由?」
『女の子側が春海を指名してきたの!』
「え!?」
なんでまた俺なんか。
『彼女の連れのコが、お前ともう一度お話したいなぁって言ってたんだと』
連れのコ……
『憶えてねぇ? 俺も当日の写真みて確認したんだけど、ボブの黒髪で大人しそうな……』
服はこんなんで……と説明してくれて、思い出した。
二次会で会話らしい会話をした女性なんて、彼女くらいだった。
「あぁ、心あたりはある……」
『じゃあ行こうぜ! 春海いま彼女いねぇだろ?』
「なんで決めつけんだよ」
『え、じゃあいんのか!?』
いない、と答えるべきか。
俺は思考をフル回転させた。
つきあってる相手はいる。
彼女≠カゃないけど。
『じゃあ、しょうがねぇかぁ』
西口は俺の沈黙を『彼女いる』という返答と受け取り、そう言った。
しかもハァァとかなり落胆をこめた溜息を吐いているのが聞こえる。
「なんでそんなガッカリ? ダブルじゃなくて普通のデート楽しんでこいよ……」
俺はボブの女性に申し訳ない気持ちを抱えながらそう話した。
『それがさぁ、春海がダメなら、デート自体がダメだって言われてんだよ』
「えぇ!?」
『あぁ、今回の俺の恋も、始まらないうちに終わった……』
マジかよ……!
お前それ、あんま脈なくね?
俺とボブのコをくっつける目的に重きを置いてるじゃねぇか。
そう言いそうになるも、喉元で止めた。
西口をこれ以上落胆させるのも気がひける。
「ごめんな……」
『や、彼女いるんならしょうがねぇって。こっちこそ急にごめんな!」
「い、いねぇよ! 彼女なんか!」
そう口をついて出てしまった。
西口に悪い。
ボブのコに悪い。
その思いが重なって、つい……
『えっ、じゃあ……』
「OKだよ! ただし一回こっきりな。このチャンス、ものにしろよっ」
『あ、ありがとう! 恩にきるぜ!』
電話を切ったあと、胸騒ぎがおさまらない。
ざわざわ
ざわざわ
なぜだ。
なぜOKなんかしたんだ俺。
『お前が他のひとのものになったら、傍にはいられない』
あの言葉に代表されるように、智哉は本来、嫉妬深いのだ。
俺が逆の立場だとして。
智哉の元カノの件で、その心情は知り尽くしている。
女とどこかへ出かける……それだけで凄くイヤなんだ。
なのに、こんなの智哉への裏切り行為じゃねぇか。
……裏切ってる……ことになるのか?
俺たちは、つきあっているんだよな?
だったら……
智哉は今も、ちゃんと俺に嫉妬してくれるのか……。
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