密かな誇り
□第三章〜虚構
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『恋人同士じゃなくなる、ってこと。友達として今までどおりつきあう』
あえて親友、と表現しなかったところに智哉の配慮がうかがわれた。
親友と名乗り合うにはハードルが高すぎる。
たぶん最初は友達のフリ≠オかできない。
なんでも屈託なく話せる、とはいかない。
取材に行った試合会場で、解説席に呼ばれている智哉を見た。
彼は常に人に囲まれていた。
テレビ関係者だったり、ボクシング関係者だったり。
少しでも隙があれば、ファンが声をかけて握手やサインをねだっていた。
しかし一度だけ、関係者通路で顔を合わせた。
俺の方は一人、智哉はマネージャーのような男性と一緒だった。
滅多に見ない黒いスーツ姿がマジでカッコいい。
でも惚れ直したりしない。しちゃいけない。
距離が近づくにつれ智哉が微笑みかけてくれたので、俺から第一声をかけた。
「解説なんて、大丈夫だったのぉ?」
「ベテランの先輩がほとんど解説してくれるから」
「お前、また居るだけか!」
「失礼な。三回コメントしたよ!」
すれ違いざまに、智哉はそう言って三本指を立てる。
俺は彼から遠ざかりながらも、バァカ!と吼えて笑った。
これでいいんだ。
俺が話しかけ、お前が答える。
その積み重ねで友達をやってきた。
今までどおり、何も変わらない。
せいぜい体の関係があるかないか、の違いでしかない気がしてくる。
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