キリリク&記念小説

□希望(サイト3周年記念SS)
1ページ/4ページ



明日と明後日は、珍しく二人の休日が重なることになった。


「久しぶりにデートしようよ!」


休日前夜、瞳を輝かせて提案する智哉。

俺はすぐに、いいねー、と賛同した。

智哉と俺が……デート……

使い慣れない言葉の響きだが、新鮮で悪くない。

顔がニヤケちまいそうなのを必死に堪え、話の先を促した。


「で、どこ行く? 」

「千景、以前(まえ)言ってたじゃん。高校の頃、一緒に行った場所にまた行きたいって」

「言ったけど……え、お前もう決めてたりすんの?」

「候補はあるよ」

「どこどこ?」

「へへー。とりあえず地元に戻ろうかっ」






翌朝。

未だに車を持たない俺たちは、地元を目指して特急列車に乗った。


「地元ってことは、修学旅行先や合宿先じゃねぇのは確かだな」

「うん。今回はね」

「せいぜい繁華街とか、仲間の家に集まったりとか……部活ばっかやってたから特別おもしれぇ場所ねぇぞー」


……我ながら捻くれてる。

本音を言えば、おもしれぇ場所である必要なんかなかった。

あの頃、友達だった智哉と一緒に行った場所へ――

両想いになれた現在(いま)、また一緒に行きたい。

それだけだった。

なのに、こんな言い方して――

『じゃあなんで、高校時代に行った場所巡りしたいなんて言ったの!』と突っ込まれても仕方ない。

しかし智哉に突っ込む気配はなく、何故か遠くを見るような目をして語り出した。


「その部活中に、俺の方から千景を遊びに誘い出したことがあった……」

「なんで物語り口調だ」


さすが天然。時おり俺の予想を見事に裏切る。


「……まぁ確かに、智哉の方から誘うって当時かなりレアだな」

「だろ? だから思い出しなさいよ」

「なんか腹立つ」


悪態をつきつつ、俺は懸命に記憶の糸をたどる。

ふと窓の外に目をやると、電車が地元の市内に入ったのが分かった。

特急は大きな駅にしか停まらないため、T駅で各駅停車に乗り換える。

俺の実家に近いS駅で下車するかと思い尋ねると、「もう三駅先のN駅」と智哉は答えた。


N駅周辺はS駅よりも田舎だ。

ド田舎だ、と地元にいた頃は認識していた(しかし東京に住む今となっては、俺の実家周辺も充分ド田舎だと思ってる)。


「N駅の方なんて、小さいけど山まであって……あっ」


そう。小さな山があって。

短いロープウェイがあって。


「思い出した?」


思い出したよ。

そのロープウェイに乗って。

星が綺麗に見える山頂へ登ったんだ――




***




高校一年の夏の終わり。

俺は落ち込んでた。


ノックの雨に耐え切れず、受けた本数を忘れた頃、目の前が真っ暗になり。

気づいたらベンチに横たわってて、額に濡れたタオルが置かれてた。

一応ダグアウトと称される囲いの中に並べられたベンチは、直射日光が当たらずひんやりとしている。

俺は天井を漠然と見ながら考えた。


厳しい練習で、たいてい一番にへばる。

同学年の皆は耐えているのに、なんで俺だけ……としばしば思う。

情けなくて。

涙が出た。


「辞めようかな……」


ポロッと口から零れる本音。

野球部……辞めようかな。


「春海……」


あれっ……? この声は。

柚木だ。

俺の枕元に、いつのまにか座っている。

今の、聞こえちまったか?

俺は慌てて腕で涙を拭った。



_
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ