キリリク&記念小説
□希望(サイト3周年記念SS)
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明日と明後日は、珍しく二人の休日が重なることになった。
「久しぶりにデートしようよ!」
休日前夜、瞳を輝かせて提案する智哉。
俺はすぐに、いいねー、と賛同した。
智哉と俺が……デート……
使い慣れない言葉の響きだが、新鮮で悪くない。
顔がニヤケちまいそうなのを必死に堪え、話の先を促した。
「で、どこ行く? 」
「千景、以前(まえ)言ってたじゃん。高校の頃、一緒に行った場所にまた行きたいって」
「言ったけど……え、お前もう決めてたりすんの?」
「候補はあるよ」
「どこどこ?」
「へへー。とりあえず地元に戻ろうかっ」
翌朝。
未だに車を持たない俺たちは、地元を目指して特急列車に乗った。
「地元ってことは、修学旅行先や合宿先じゃねぇのは確かだな」
「うん。今回はね」
「せいぜい繁華街とか、仲間の家に集まったりとか……部活ばっかやってたから特別おもしれぇ場所ねぇぞー」
……我ながら捻くれてる。
本音を言えば、おもしれぇ場所である必要なんかなかった。
あの頃、友達だった智哉と一緒に行った場所へ――
両想いになれた現在(いま)、また一緒に行きたい。
それだけだった。
なのに、こんな言い方して――
『じゃあなんで、高校時代に行った場所巡りしたいなんて言ったの!』と突っ込まれても仕方ない。
しかし智哉に突っ込む気配はなく、何故か遠くを見るような目をして語り出した。
「その部活中に、俺の方から千景を遊びに誘い出したことがあった……」
「なんで物語り口調だ」
さすが天然。時おり俺の予想を見事に裏切る。
「……まぁ確かに、智哉の方から誘うって当時かなりレアだな」
「だろ? だから思い出しなさいよ」
「なんか腹立つ」
悪態をつきつつ、俺は懸命に記憶の糸をたどる。
ふと窓の外に目をやると、電車が地元の市内に入ったのが分かった。
特急は大きな駅にしか停まらないため、T駅で各駅停車に乗り換える。
俺の実家に近いS駅で下車するかと思い尋ねると、「もう三駅先のN駅」と智哉は答えた。
N駅周辺はS駅よりも田舎だ。
ド田舎だ、と地元にいた頃は認識していた(しかし東京に住む今となっては、俺の実家周辺も充分ド田舎だと思ってる)。
「N駅の方なんて、小さいけど山まであって……あっ」
そう。小さな山があって。
短いロープウェイがあって。
「思い出した?」
思い出したよ。
そのロープウェイに乗って。
星が綺麗に見える山頂へ登ったんだ――
***
高校一年の夏の終わり。
俺は落ち込んでた。
ノックの雨に耐え切れず、受けた本数を忘れた頃、目の前が真っ暗になり。
気づいたらベンチに横たわってて、額に濡れたタオルが置かれてた。
一応ダグアウトと称される囲いの中に並べられたベンチは、直射日光が当たらずひんやりとしている。
俺は天井を漠然と見ながら考えた。
厳しい練習で、たいてい一番にへばる。
同学年の皆は耐えているのに、なんで俺だけ……としばしば思う。
情けなくて。
涙が出た。
「辞めようかな……」
ポロッと口から零れる本音。
野球部……辞めようかな。
「春海……」
あれっ……? この声は。
柚木だ。
俺の枕元に、いつのまにか座っている。
今の、聞こえちまったか?
俺は慌てて腕で涙を拭った。
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