聖域は語る

□第二章
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『月刊BOX通信』編集部フロアの一端に設けられた、ガラス張りの休憩ルーム。

先輩編集者の武田(たけだ)さんと雑談していて、引越しの件に話が及んだ。


「今住んでる部屋、更新の時期が迫ってて。ちょうど柚木も引越しを考えてたから、別の部屋を一緒に借りてみようかって話になったんです」


俺は、あらかじめ用意しておいた『同居理由』を並べた。


「ホント仲いいなぁ。デキてるんじゃないの?」


武田さんのベタな冗談に、心臓が跳ね上がった。


「やめてくださいよぉー、あいつは兄弟みたいなもんなんですってばぁ」


入社時から世話になりっぱなしの武田さんに嘘をつくことは、ハンパなく罪悪感がつのる。

でも、こう言うしか仕方ない……。



会話が聞こえる位置に人がいないのをガラス越しに確認し、武田さんは驚きの発言をかました。


「ハハわかってるって。でも仮にデキてたとしても、お前と柚木なら不思議と嫌悪感はねぇな、俺は」

「はっ……はい!?」


俺はすっとんきょうな声をあげてしまった。


「前から言ってんだろう? 春海は可愛いからって。そのテの野郎に口説かれたことあんじゃねぇか?」

「…………な、ないです! ないですよぉ!」

「心あたりあるな、さては」


二の句を継げなくなってしまった俺を見て、笑顔で喋っていた武田さんは、表情を一変させた。


「わりぃ。マジであると思わなかったんだ。……気をつけろよ。よく知らない男に誘われても、無警戒についていくんじゃねぇぞ」

「はい……それは、気をつけてます」


俺はそう言いこぼしながら、思わず膝の上で拳を握りしめた。

男でありながら、そんなセリフを吐く自分。

なんだか恥ずかしく、情けない気がして。


「そうかぁ……じゃあ親友と同居した方が心強い、って気持ちもわからなくはないなぁ」


結果的に、武田さんの中で『俺と智哉が同居する理由』が説得力を増したようだ。



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