聖域は語る

□第六章
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意識がとんで、どのくらい時間が経ったのか。

気がついたら、智哉の姿がなかった。

浴室の方からシャワーの音がする。


ヤってる時の智哉の様子が脳裏に蘇えり、あれでは射精してもすぐに気が静まったとは思い難かった。


ソファの上に身を起こす。

さっき繋がった箇所はグズグズになったまま。体中には無数の紅い痕。

――全て智哉が付けた痕。

智哉だけが。

そう思うことで、少し心が軽くなった。


昨夜まで感じていた心細さや恐怖も、別の何かに変化している。

そりゃそうだ。

例の一件について、いつ誰から智哉に伝わるかと、怯える日々が続くかもしれなかったことを思えば――

全部てめぇの口から吐き出させてもらえたんだから。

そのくせ智哉が一人で浴室に行ってしまったことに、一抹の寂しさを感じている。

……自己中だな俺。

俺を浴室まで運ぼうとしたりする、優し過ぎるアイツに慣れちまってたのかな……



シャワーの音が止んだ。

なんだか顔を合わせづらい。この居間を通らずに寝室に行くことは不可能なのに。

取り急ぎ、手近にあったボックスティッシュで体を拭いていると、智哉がタオルで髪を拭きながら居間に入って来た。


「……大丈夫?」


表情をあまり動かさずに尋ねてくる。


「ん、あ、だいじょッ……」


俺はすぐに浴室へ向かおうと思って立ち上がった。

しかし腰がガクッと落ちかけ、智哉に受け止められた。


「あ……はは……情けねェ」


なに笑ってんだ俺は……

離れなきゃ。俺、汚れてるし。

でも智哉の腕の中……気持ちいい。


「ごめん。ひ、一人で歩けるから……」

「無理すんな」


智哉は俺を肩に担ぎ上げ、浴室に向かった。


「いっ、いいよ! 下ろして……」

「暴れないで。逆に危ない」


仕方なく俺は智哉の言葉に従う。

脱衣スペースに入り、浴室のドアの前で下ろされ、向かい合うかたちになる。

俺は智哉の胸板の辺りに目をやりながら、ありがとう、と礼を言った。


「あとは自分で出来るから。智哉、もう休んでよ」

「……あぁ」


そう返事しつつも、智哉は部屋へ戻ろうとしない。


「シャワー浴びてる間、少し冷静になって考えた」


続いて降ってきた言葉を受け、俺は彼を見上げた。


「お前は記者なんだ。取材する相手に関心持つのは当たり前だよな?」


柔らかい微笑を浮かべ、彼は俺の髪をくしゃりと撫でる。


「俺の恋人としてだけ生きるなんてできない……俺がボクシングを捨てられなかったように。それが現実だもんな」

「あ……」


目に涙が溜まる。


「ごめん……智哉……」


寂しいのは、俺の方だけじゃない。

ひとつに溶け合えないことを嘆いているのは、智哉も同じ。

お互いを、地の果てまで伴って生きたい。そう言葉にはできても。

おいそれと現実は許さないのか――


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