聖域は語る

□第五章
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翌日――


俺は取材と称して、シレッと新チャンピオン・楢山≠フ合同記者会見に出向いていた。

会見場といっても、拳聖ジムの一角に設置された一時的な会見スペースだ。富士澤ジムの所在地は隣県であり、敷地も狭くこのような会見には不都合だった。

高橋ジム所属の智哉も、全く同じ処遇である。大手のジムか、ホテルの一室を借りて会見に臨むことが多々あった――


智哉は今頃、本当に引退をジムに申し出ているんだろうか――

仮にそうだとして、安西さんらが簡単に納得するとは思えない。智哉の引退は高橋ジムの損失に留まらず、業界レベルの損失のはずだ。

俺は、なんて勝手なことを……


『俺のものに、なって…………全部捨てて、俺の……!』


独占欲にまかせた自分の訴えを反芻して、体中がカッと熱くなる。

しかし周りで一斉に焚かれた取材カメラのフラッシュが、俺を我に返らせた。

左目尻に絆創膏を当てた楢山が、会見場に姿を現したのだ。

富士澤会長や担当トレーナーも後に続いて現れ、楢山から少し離れて会見の様子を見守る。


「まだ夢の中にいるようで実感がありません」


用意された席に座り、今の心境を尋ねられた楢山は、笑みを湛えてそう答えた。

お決まりの質疑応答が続く中、初防衛戦の話に触れたところで、前列にいたスポーツ紙の記者が驚きの発言をブッ込んだ。


「その初防衛戦だけど、柚木智哉選手とやりたいって富士澤会長に頼んだそうですね?」


それが本当なら、楢山は昨日のパフォーマンスに限らず、智哉との対戦実現に向けて行動で示していることになる。

楢山が笑顔を絶やさずにコクリとうなずくと、記者は富士澤会長に確認を求めた。

会長はマイクを渡され、特に表情を変えぬまま答える。


「聞いてますよ。日本人同士の方が盛り上がるし、いいんじゃないですか。本格的な交渉にはまだ入ってないですけどね」


その後を受け、楢山は意気揚々と発言した。


「俺と柚木は、いい意味で仲が悪いんで、面白い試合ができるはずです。初防衛戦だからイージーな相手を選ぶなんてのは、プロ失格ですよ」


感心を露わにしてのけぞる記者もいる中、冷静に質問をかぶせる記者も。


「宿敵同士……ということですか? 何か特別な理由でも?」


すると楢山は首を傾げ、さぁ? と思わせぶりなリアクションをした。


「言っとくけど、女がらみとかツマンナイ理由じゃないから。そういう憶測記事は御免こうむります」


好青年の印象を植え付け済みの楢山がそう釘を刺すと、取材陣は笑い声をあげた。



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