密かな賭け
□密かな賭け
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『○日の夜、兄貴の部屋に泊めて欲しいんだけど!』
弟の一哉から電話で頼まれた。
都内で、好きなバンドのライブがあって、ラストまでいると家に帰れないからだという。
『無理ならマン喫で寝るとかテはあるんだけどさっ』
うっわ、疲れそう……。
宿泊費を抑えたいんだろうな。
「いいよ。減量中じゃないから」
『ホント!? 減量中はダメなんだ?』
「うん。気が立ってるから一緒にいづらいと思うよ」
『気にしないけどなぁ、そんなの。兄弟だし』
俺が気にするのだ。
弟とはいえ、久しぶりに見せる姿が大半イラついてたとしたら、きっと一哉が帰った後になって悔やむ。
とにかく○日なら大丈夫。
『彼女とか、いきなり来たりしない?』
心配げな口調になって、一哉はそう尋ねた。
「…………しない」
『何? いまの間。あっやしぃぃ』
「ないよ! あの熱愛記事だってデマだって何度も言っただろ!」
『別に相手が芸能人とは思ってないよ。母さんも言ってたろ? 兄貴のガラじゃないって。しかも高杉さなえってさぁ、実は小悪魔で、すげぇオヤジ転がしなんだってよー』
どこで聞いた話なんだか、そう言って一哉はヒャヒャヒャ、と笑った。
母さんとも、そんな話をして盛り上がってる様子が目に浮かぶ。
家族の中でも、性格が似かよっている二人なのだ。
「まぁ、春海くらいだな、いきなり来るとすれば」
俺は内心ドキドキしながら恋人の名字を口に出す。
『じゃあ大丈夫だ! にしても部屋まで来るの春海くんばっかだな! 他に友達いないの?』
「うるさいなぁ」
『ごめんごめん! やっぱ泊めないなんて言わないでお兄様! じゃ、○日よろしくぅ』
そう言って電話は切れた。
やっぱ泊めないなんて言ってないだろ。
全く口が達者なんだから。
さて……。
俺の恋人≠ノは、なんて伝えとこうかな?
○日の夜は、君も仲よくしてくれてる一哉が泊まりにきます。
会いに来てくれたら、あいつ喜ぶと思うよ。
仕事が忙しいだろうけど、そうメールを打って送ることにした。
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