FA2トウホウ

□君との約束を
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外側は固く内側もパリパリに焼かれた。ライ麦パンの塊を一口大に引きちぎる。
それをトウモロコシが浮いたポタージュにつけて軟らかくしながら、もぐもぐと食べていた。ほどよい酸味が食欲をそそる。

若くして責任ある地位を手にいれた私は、最終チェックを担う要職に就いているために、昼休み中も終わらない書類に追われていた。


仕事の合間の息抜きにと、午前中の視察帰りにテイクアウトしてきた。ランチセットは食堂のメニューより味が良い。
パンひとつにしろ、あの店は質と量共に悪くない。
しかし、店主のこだわりか。ややパンが固めである。

いや、戸棚に数日間入れっぱなしにしてあった。水分が抜けた乾燥パンよりは美味いな、と考えたところで、売り物として作製したパンを残り物と比較するのは了見違いか。
これは、ただの固いパンではない。
あらかじめ計算された上で焼かれた。この絶妙なさじ加減が、
リピーターを惹き付ける人気の秘訣だろう。

地域差がある点を考慮しても、アメストリス国では主に主食として長い間パンを食べ続けているからか。小麦の品種改良や製品の加工技術の高さには近年、著しい飛躍があった。
ようするに、舌の肥えてきた客に対して店は常に、他店よりも美味い商品を提供しようと競いあっている。生き残りをかけて様々に努力しているのだろう。

喉のつかえを取るために、部下が煎れたいつもの不味いコーヒーを飲みながら、どうせなら飲み物も店のものなら尚よいと思う。
野菜も摂るかと思いつきで選んだピクルスは、さっぱりとして美味かった。

「終わったぞ。次の書類を用意しておけ」

一段落ついたところで、私の席から離れた自席にて昼食を摂っていた部下に声をかける。
 
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