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□2023 140SS
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暑いと言って袖口で汗を拭う仕草を思い出し、男物のハンカチを買い求めても…彼に渡せるはずもないのにと深いため息「すまない…!」食堂で上官にぶつかった弾みに飲み物を溢されて、大丈夫ですと手早く拭き取る。新品でなくなってしまった布を握りしめて、もう一度零れそうな吐息をそっと呑み込んだ。
ハンカチ


ため息をつきハンカチを握る彼女の姿に、直ぐにでも声をかけるべきだろう。いや、待ち人がいるなら邪魔をしては不粋だと考えながら「汚してしまってすまない…」不注意で部下にぶつかった詫びを入れていた。胸元の染みを拭っている紳士用の布が君の身体に触れるたびに忌々しいと舌打ちもしてしまう。
ハンカチ


隣に座り悩み事があるならと水を向けても「…何も」との返答に少し飲み過ぎてしまう。素面でいたいのか彼女は味噌トマトソーダを注文している。一口飲んで後は残しているので味が気になり飲みかけを相伴する「君と…その、間違った」凝視されている視線に気づき、家族でもないのだからとグラスをおく。
視線


飲みかけでもよいくらい親しいひとは友人や家族かしら。それとも…誰と間違えたのかと聞ければよいのに「中尉、地図を」手渡したそれを眺めて眉を寄せる姿に「その…間違ってしまって」市街地の地図を差し出し、汗ふき用のハンカチを返して貰う。あの品は贈り物から私物になり私の愛用品になっている。
地図


 

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