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□眠れない夜に
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「中尉、疲れているなら休みたまえ」最近、寝不足気味だとは聞いていたが…「本当だ。目の下の隈がすごいことになってますよ」と部下達も騒ぎだす「医者にはかかっているのか?」「ええ、安眠剤も服用してますので三時間ほどは眠れるようになりました」彼女は大丈夫ですよと少し虚ろな表情で返事をする。


その後。帰宅中に茶でも飲まないかと家に彼女を誘い二人で話しをすることに「いつからなんだ?」「一ヶ月ほど前からですけど」「君…重症じゃないか」と思わず頭を抱える「あの…大佐は眠れない時ってありましたか?」ん?「その…私も色々試してみたんですが改善されなくて、お茶も試してみたんです」


どうやら彼女は枕を変えてみたり、ハヤテ号を抱き枕にしたりと試行錯誤を繰り返してきたらしい。「…でも、結果がでなくて」落ち込む姿が忍びなくて力になりたいと思う。「そうだな、眠れない夜が暫く続く時か…」ひとつ思いついたことがあった。「うむ、人肌が一番効くだろうな。一人寝よりはやはり」


すると、カチャンとお茶の器を置いてぎゅっと両の手を握りしめていた副官は、はあと小さなため息をつきちらと私を見てから…「参考にしてみます、ご意見有り難うございました。それでは私はそろそろ辞去しますので大佐はお身体を冷やさぬように…ああ、お一人でお休みになる訳でもありませんでしたね」


「失礼しました。ロイ・マスタング大佐」と機械的に謝辞を言いながらもフルネームでちくりと指摘するような物言いに彼女の機嫌が悪くなってしまった原因を考えて…「いや、そんなつもりじゃなかったんだよ、君に抱き枕なるものを勧めたいと思って」「枕ですか…女性の?」「そう。あ、いや違う」


人間ならばと続ける。上官不信にでもなってしまったような目をしないで欲しいと思う。「家族に添い寝してもらうようなもので、君も子供の頃にそういう体験あるだろう?」変な意味ではないと言い繕っていると「…そうでしたか」大きな瞳でパチリと瞬きした彼女は、ようやくいつもの口調に戻ってくれた。


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