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□お弟子さんと白い薔薇
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帰宅途中に綺麗な花をたくさん扱っている花屋の前を通る「あれ?」白い薔薇がないーー「売り切れてたんです」「それは残念だったね」年上のお弟子さんは父より気さくで私もつい色々お喋りしてー「…よかったら、今度一緒にお店に行こうか」「えっ?」柔らかな笑みに見るだけでいいんです…とは言えない。


「どんな花束がいいか。決めておいて」汽車に遅れてしまいそうだ、と慌ててマスタングさんは帰宅してしまう「明日どうしよう…あ、しょっぱい」断ると気分を悪くするかなと悩んでいる間に塩加減を間違えてしまう。半分焦げたパンと魚に塩辛い豆のスープ。お父さんが気づきませんようにとチーズを添える。


「…待たせたね」朝から登り坂を走ってきたと言うなんて「無理しないでくださいね」「これくらい大丈夫、ワゴン車の花を全部買うのは無理だけど」「そんなに要らないと思います…あの」「ごめん、師匠に先に話してくるよ」話すタイミングを失ってしまう。もう、夜遅くまで考えて練習までしていたのに。


街へ続く一本道を重い足取りで歩く。冬に買い物を手伝って貰った時とは違う。それに…日用品は必要なものを求めなさいと約束したばかりなのに。具合が悪いなら帰ろうかと声をかけられて座ったベンチで、「すみません…本当はお花は見ていただけで買い求めるつもりはなかったんです」本音を打ち明けた。


「…怒っていますよね」見るだけでいいなんて、わざわざ二人で出かける理
由になんてならないはず「そうだね…少しだけ」静かな口調だけど迎えに来てくれた時とは違う低い声に、顔を上げて話しをすることが出来ない。少しだけなんて嘘だ。お勉強をする為の大切な時間を使ってここまで歩いて来てくれた。


「あの、どう言えばいいか。わからなくて私…お花を買うなんて特別な日でもないのに、やっぱりお花は眺めているだけで、いいんです」やっと伝えることが出来た。わざわざお店に行かなくても、もう少ししたら今年も裏庭にアネモネが咲くのに…もっと早くにお金がないので、と話せたらと後悔していると。
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